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佐藤寿保「ラジカル・ヒステリー・ツアー」

佐藤寿保「ラジカル・ヒステリー・ツアー」 (成人映画公開題「ロリータ恥辱」) 脚本は夢野史郎。

地球にハレー彗星が衝突して滅亡すればいいのに、と思う女子中学生(藤沢まりの)が、ラジオで海賊放送局の電波をキャッチ、送信元を探し出し基地局をジャック、目撃した「通り魔殺人鬼による惨劇」を実況、男と知り合い「MURDUR LINE」に興じていく、世紀末的な傑作。

モチーフは、ROLLING STONESの「Paint it,Black」(黒くぬれ!)これをカバーしたRCサクセションのカバー曲が本作のテーマソング、世界なんて真っ黒に塗りつぶしてしまえ、という過激な終末思想に従い、女子中学生は殺人ゲームにのめりこんでいく。

新東宝がビデオ化したタイトルが「藤沢まりの 淫媚楼」初回公開題の趣旨が全く伝わらないし、適当なポスタービジュアルもない。実際に作品を観てみないと、この世界観は伝わらないかもしれない。エログロ・エキセントリックな寿保映画のもう一つの顔「パンクロック」の世界。 

佐野和宏は「マジカル・パイレーツ・ツアー」という海賊放送を、大型ワゴンに基地局を乗せてゲリラ放送している。佐野の目標は「荒んだ東京の街を浄化すること」恐らくは自衛隊員だったんだろうw若くして退職金で生活し、退屈する佐野にとって、海賊放送が心の支えなのだ。

ヒロインの女子中学生(←この設定はヤバくない?)まりのは、頭がトロい幼馴染(芳村さおり)といつもつるんでいる。制服も違うし、頭の良さにも違いがありそうな二人には埋めきれない溝があり、まりのはさおりのことをバカにし続けるが、さおりは言葉の意味に気づかない。

海賊放送の目的が「世直し」の男に対し、ジャックしてしまう女子中学生は退屈しのぎ。無差別レイプ殺人鬼は、女子中学生を手を組んで殺人ゲームに成功、証拠を掴んでしまった男も殺害する。でも最後に生き残るのは誰か?それは世の中を退屈しのぎとしか思わない女子中学生だ。

80年代「空虚」「シラケ」の時代においても、1989年頃はバブルの絶頂期(=崩壊直前期)で、まともな人間なら世界終末思想に染まってもおかしくなかった時代。オウム真理教が勢力を伸ばしたのもこの時期からだし、小学生までが世をはかなんで自殺してしまったような時代。

最も多感な時期の中学生にとって、ラジオで偶々、佐野和宏が「マジカルパイレーツツアー放送局。この世は破滅します」この言葉を、佐野は「世直し」の意味で使うのだが、まりのは中学生なので「破滅しちゃえ、こんなクソな世の中!」とラジカルに思う。この溝は埋まらない。

レイプ殺人鬼の土門は、佐野ともまりのとも違う見方で、世の中に絶望している。「部屋の音を、街の雑踏から拾った自分の理想的な組み合わせに完成させて、そのBGMで女を犯して殺す」ことに快感を覚える彼は、既にこの世の人ではない。本人が既に破滅してしまったのだ。

まりのと佐野と土門の三人は、揃って「世も末」感を強くし、反社会的な行動に移してしまうのだが、佐野と土門には、何とかその理由を辿ることはできる。でも、まりのについては辿ることが困難で、せいぜい両親が変態セックス大好きな位。訳の分からない苛立ちがあるのみ。

まりのは、殺人ゲームで実際に犯行に手を下していない。常に、アナウンサーとして目の前の猟奇的な現場を臨場感あふれる実況(←私が映画の感想書きで目指してるレベルw)興奮しながらまくしたてる、その瞬間だけ、彼女は退屈極まりない現状から解き放たれ自由になれる。

影の主役はまりのの幼馴染でいつもつるんでいる、さゆりである。ルックスも言動も全く冴えない、典型的な「イケてない」女の子で、一見仲が良さそうに見えるまりのですら、邪険にしてしまう。彼女は殺人ゲームの被害者になってしまうが、影の殺人犯は、実は友達のまりのだ。

まりのは、退屈しのぎの殺人ゲームを楽しむため、「佐野おじさんを誘惑したら仲間に入れてやる」条件をバカみたいに安直に実行し、その部屋に合鍵で忍び込んだ殺人鬼・土門に絞殺されて一生を終える。まりののような生き方もあれば、さゆりのような存在も、いかにも80年代。

冒頭、原宿のホコ天でノイズを録音してイヤホンで聞きながら「人生は楽しいですか?」「セックスしてますか?」「便秘してますか?」など、たわ言をブツブツ言うまりのは、どこから見ても危ない人だがw同じように、収音マイクで音を拾う青年(隈井土門)と、運命的に出会う。

まりのと土門の出会いは、原宿で音を拾う時、まりのはローラースケートで滑りながら録音していて、土門に衝突した「交通違反だよ!」と明後日な文句をつける時点で、二人は極めて特殊な狂人同士、分かり合っても良かったと思うのだがwその時はお互いに素通りしてしまう。

街のノイズを拾うことに没頭するまりのは「ノイズ探偵団」を名乗りリュックサックにも名札を付け行動を開始。トロいさおりも「探偵団に入れて!」とお願いするが、まりのは断る。まりのはCDが光に反射するキラキラが好き、さおりの好きな光GENJIを「ガラスの変態」と揶揄w

まりのの後を追いかけて、佐野のワゴン車兼マジカルパイレーツツアー放送局に近づいたさおりは、佐野に強姦されそうになるが、逃げて未遂。でも、まりのは、勝手にマジカルパイレーツツアーを乗っ取って「ジャンピングジャックパイレーツ」と名乗り強姦の架空実況を開始w

まりのは自由人なので、名前を出された(しかも強姦されてないw)さおり、(強姦してないw)佐野から文句を言われるが、全然、意に介さない。彼女は次の獲物を探して、双眼鏡を使い覗き見を開始する。まりのは自分が「タレント兼アナウンサー」になり切って楽しむのだw

マンションのある部屋で、一流企業のOL(南崎ゆか)が凶悪レイプ魔の土門に強姦されているのを、まりのは見てしまった!でも、彼女がとっさに取った行動とは、海賊放送局を使って、レイプの一部始終を実況すること。「お前ホントはこれが欲しかったんだろ」「いや、やめて」

土門はレイプし終えた瞬間、ニードルスティックを取り出すと、OLの胸を何度も刺し、血があふれ出す。興奮したまりのは「刺せー!もっと刺せー!めった突きにしろー!」と絶叫。これを聞いた佐野は「ヤバい!」海賊放送局は実際に起きたレイプ殺人現場を実況していたのだ。

でも、佐野は東京の浄化が使命と思っているので、まりのに関心を持ちワゴン車で実況することを許した。次に双眼鏡で盗み見るのは、マンションの一室でオナニーしている女(風見怜香)「オナってます!」「丸見えです」中学生のまりのは大人の女性のオナニーにもう大興奮!

ところが、怜香が口に含んでたのがバイブと思ったら大蛇でびっくり(笑)そんな中、土門が再びまりのの目の前に現れる「なあ、俺と組まないか」でも、佐野は仲間外れだ。土門はまりのの自宅に「MURDER LINE」と称される、実際の犯行時刻、場所、手口の書かれた手紙を送った。

「私は殺人現場の実況が本格的に出来る!」大興奮したまりの。彼女の両親(渡剛敏&伊藤清美)は変態セックスが大好きで、もう中学生になる娘の目も考えず、清美が黒の下着に黒いハイヒールを履き、渡がこれをペロペロ舐めながらシックスナインして興奮、まりのは嫌悪感があった。

まりのは「MURDER LINE」即ち殺人ゲームが起きる前に、自分の両親である渡と清美を惨殺した場面を妄想する。絞殺された渡の怒張したブリーフの上に、清美のハイヒールを履いてグリグリと股間を踏みつける女の脚。それを襖越しに覗き見して興奮している、まりのの姿であった。

土門が事前に約束した場所、マンションの一室で時間通りに、土門が面識の全く無い女(風見怜香)の部屋にずかずか上がり込んで、襲う。ナイフを突きつける土門を双眼鏡で覗きながら「殺せー!刺せー!」と絶叫するまりの。土門は怜香をレイプすると、ナイフを突き立てた。

土門が怜香の胸をナイフで刺すたびに、血飛沫が上がる。まりのは「血飛沫が上がっております!凄い量です!」興奮しながら絶叫。こうして「MUEDER LINE」は成功に終わった。次はどうするか?土門はまりのの友達・さゆりに目を付けた。彼女を標的に「MURDER LINE2」実行だ。

まりのは土門が怜香をナイフで刺し殺した現場の興奮も覚めやらぬままに帰宅。ナイフをリンゴにグサッと突き刺す。その背後にリンゴ・スターのポスターw(ローリングストーンズの次はビートルズかよw)「パイレーツ(海賊放送)殺人なんてピーアール(PR)」韻を踏んでるw

土門はまりのと相談の上、さゆりに条件を持掛けた「佐野を誘惑して一発やらせたら、ノイズ探偵団に入れてやる」そして、マンションの一室、さゆりが佐野を部屋に引っ張り込み、服を脱ぐ。そして、おっぱいを窓ガラスに当て良く見えるように、佐野にバックから犯され始めた。

さゆりと佐野の痴態を覗き見しながら、まりのは「これは違う」と感じた。そして次の瞬間、まりのは土門と熱いFUCKを交わしていた。そして、土門が果てると佐野とのFUCKを開始。そして佐野が果てると土門と再びFUCK。多感な女子中学生は、大人の男性との危険な妄想に酔った。

ところが、まりのが土門、佐野とのエンドレスセックス妄想からハッと目覚めて双眼鏡を覗くと、計画通りに土門がさゆりの首を絞めて殺害した。まりのは打ち合わせ通りに叫ぶ「キャー!」こうして「MURDUR LINE2」が完了した。ここで、佐野は二人の殺人ゲームに気づいた。

佐野は、夜の屋上でまりのと土門にカメラを向ける「これまでのことは全部撮影した。謝礼は払う、モザイクもかけるから、これを放送させてくれ」でも、土門は断る。そんなことをしたら「MURDUR LINE」は終わってしまう。佐野と土門は決裂し、まりのは土門の側についた。

原宿の人ごみの中、佐野がカメラを構えて取材する「通り魔事件について、どう思いますか?」ある男に質問した途端、佐野は鈍器で殴られ、死んだ。殴った男は土門であった。派手な服を着て満面の笑みをたたえたまりのが、群衆に質問して回る「一体、何が起きたんですか?」

佐野がマジカルパイレーツツアー放送局に使っていた大型ワゴン車は、土門が勝手に盗んで「ラジカルヒステリーツアー」車に改造していた。助手席に乗り込んだまりのは、土門にマイクを向け「私とやって、エッチ」土門は「仲間とはやらない」次の瞬間、まりのの「キャー!」

佐野が土門に、まるで通り魔の様に撲殺された「MURDUR LINE3」に続き、最後に起きた惨劇、まりのが土門を衝動的に殺した「MURDUR LINE4」を最後に物語は終わり、RCサクセションがシャウトする「黒くぬれ!」が世界の終わりを暗示するかのように不気味に響いて幕を閉じた。

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