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侯孝賢「フラワーズ・オブ・シャンハイ(海上花)」

新宿ケイズシネマで、侯孝賢「フラワーズ・オブ・シャンハイ(海上花)」 原作は韓子雲・張愛玲「海上花列伝」 脚本は朱天文。

清朝末期の白話奇書が本当の原作、小紅(羽田美智子)、翠凰(李嘉欣ミシェル・リー)、双玉(劉嘉玲カリーナ・ラウ)、蕙貞(魏筱恵)、4人の美しき娼婦達が、男女の色恋沙汰で諍いを繰り返す、カメラが娼館から一歩も出ずに痴話喧嘩エピソードを延々と散りばめた、日台合作の耽美派ロマンに溢れる奇作。

これはちょっと凄い作品ですよ!久々に観ていて震えましたw物語はありそうで結局は無くて、タイトルにある通りの上海的花魁4人の美女が、辮髪頭に阿片を吸う上流階級の貴族と切った腫れたの痴話喧嘩し続ける、作風に「愛のコリーダ」を感じるような作品w

合作の日本側は松竹富士配給で、上海の娼館が舞台。昼間っから娼館に引きこもりバクチ(=カードゲーム)とヤク(=阿片)に明け暮れる、清朝末期の辮髪の上級国民たちの、金と交換にシモの相手をする美女4人、ただれた愛欲ドラマに死臭すら漂う、世紀末的な一品。

一応、主役は梁朝偉(トニー・レオン)となっているが、彼は辮髪した阿片大好き上級国民で、娼婦二人を次々と浮気で傷つけた後に上海の娼館から広東に旅立つ、救いようのないダメ色男を演じていて、これがカッコいいかと言えば全然カッコよくないけど、主役だw

本作には敢えて片仮名で書くと、トニー・レオン、カリーナ・ラウ、ミシェル・リー、レベッカ・パン、4人も香港スター出演、日台合作で日本から羽田美智子が女優部主役、台湾から伊能静とともに作中で流ちょうな上海語を喋っており(←おいおい、吹き替えだろw)スクリーンが非常に豪華に見えるw

台湾と日本の合作映画で、清朝末期の腐敗しきった、腐臭が漂って来そうな上海の娼館を舞台に、娼婦と貴族が色恋沙汰で喧嘩するのを2時間延々と見続ける。当然、色恋沙汰は色恋沙汰でしかなく、その虚無感やクールな感じが、妙なグルーブ感を醸し出すw

ロマンポルノ的に残念なのは、台湾は成人映画に対する規制が日本より厳しいのか、日台合作だからか、侯監督の作品だからか、セックスを扱った作品なのに、誰もハダカにならないし濡れ場が無い、どこかスノッブな雰囲気に終始してしまい、これフランス人好みだなあ、とは思うw

映像のイメージは、山口清一郎「愛の狩人ラブハンター」のような感じで、抽象絵画のようなフワッと温かい画面の中でシビアな痴情のもつれが展開!どう見ても濡れ場が必要でしょ、と思うもそれが一切無い、ミシェルリーもカリーナラウも脱いでくれないのだw

私が「愛のコリーダ」に例えたのは、スクリーンからオカルト的な妖気が漂っていることで、これは阿片だ、阿片の仕業に違いない!男たちは辮髪した清朝の上流国民たちで、常に娼館で阿片を吸っている、で、映画には出てこないけど官能的な一発をかましているはずw

侯監督は、台湾の歴史や文化を、台湾で生きる人々の出自と重ね合わせて抒情的に描く監督と思っていたので、初見のこの作品には衝撃!清朝の上海は大陸でも台湾でも敵視して当然の退廃世界だが、娼婦と上流階級と阿片と辮髪、ここにフォーカスしてみました!

唯一、物語らしく機能するのは、小紅が「唯一の客」として取ったはずのトニーレオンが蕙貞ともデキていて、小紅をフッて蕙貞と結婚しようとするが、別の女とも浮気していてダブル破局、でもそんなこと全然気にしない!と広東に旅立つ彼の爽やかな笑顔(笑)

翠凰のパートが一番良く書き込まれていて、李嘉欣の妖艶さがスゲエ!「私は安い女じゃないのよ」と身請けを申し出る男たちを足蹴にし続け、世話になった女将にも悪態をつき続け、新たに女将の道を歩み始める、この女性を見ているとホラー風味なのは必至w

双玉のパートがクライマックスで、劉嘉玲は見るからにサイコパスw同僚の双宝のライバル心に煽られてブサメンをゲットしたはいいが、許婚が別にいることを理由に破談し毒を飲ませる激情家wブサメンも双玉のことが忘れられず、ドロ沼にハマっていく。

この作品が面白いなあと思うのは、トニーレオンはイケメンで遊び上手なのでダブル浮気しても涼しい顔なのに、ブサメンは自分の親が決めた許婚が理由で双玉をフッたはずなのに「やっぱダメだ、俺は双玉ちゃんのことが忘れられないよう!と頭を抱えて悩む。

娼館にはイケメンやブサメンだけでなく、老獪なジジイも跋扈していて、その一人がブサメンに「金で解決してやる」と大金を拠出させ、嫁入りの資金に充てる。でもブサメンがジジイに「で、双玉は誰と結婚するの?」「それは言えねえ」で映画が終わっちゃうw

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