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田中登「ピンクサロン 好色五人女」

田中登「ピンクサロン 好色五人女」 原作は井原西鶴。 脚本はいどあきお。 

開店屋の井原(砂塚秀夫)に助言を受けながら元自衛隊員の男(山下洵一郎)がピンサロからトルコ、長襦袢サロンと次々衣替え。訳あり女5人(山口美也子、宮井えりな、青山恭子、松田瑛子、大谷麻知子)を乗せた浮世絵イラスト好色五人女ワゴンがサービスエリアの移動サロンを経て西方浄土、雄琴に向かって破滅する、ロードムービーの大傑作。

1972年に公開された「牝猫たちの夜」から6年。94分の尺を持ち登場する5人の女たちそれぞれが背負う過去の物語も圧倒的に豊潤で「人妻集団暴行致死事件」と並び立つ田中監督の代表作と思う。1978年の彼はキャリアハイ、とんでも無い大傑作を次々生み出したものだ。

原作は皆さんご存知の、とても有名な「好色五人女」どう有名かって5本の悲恋譚がそれぞれ独立しても有名で、お夏清十郎とか八百屋お七は単独でも一本の映画に成りうる物語なのに5人の女をピンサロに集め5本の物語を重ね合わせ、怒涛の迫力で最後まで一気に見せる。

お夏清十郎、樽屋おせん、おさん茂右衛門、八百屋お七、おまん源五兵衛、井原西鶴が描いたヒロインの5人の女たちを、お夏=夏子(青山恭子)、おせん=ツル(宮井えりな)、おさん=ミツ(松田瑛子)、お七=ナナ(大谷麻知子)、おまん=万子(山口美也子)に大胆に翻案してるw

特筆すべきは劇伴の豊潤さで、実に21曲もある。根岸吉太郎「キャバレー日記」が傑作でも本作をどうしても越えられない壁はピンクレディなど当時の最新流行歌謡を物語の要所に配置してしかも演出とドンピシャ。これだけは時代に恵まれていたとしか言い様の無い幸運。

最大の見所の1つは、山口美也子のストリップ。なかにし礼の歌う「時には娼婦のように」に合わせてストリップ劇場でレスビアンショー、閉店する長襦袢サロンで客が帰った後、美也子が踊るストリップは、この後も含めて合計4回あるが、回を追うごとに踊ることの意味が変わっていく。

美也子は好色五人女ワゴンが雄琴に向かう夜のサービスエリアでワゴン車の天井を即席ステージに照明塔の灯りに照らされ、中原理恵「ディスコ・レディ」に合わせて軽快に踊る。ストリッパーという束縛から解き放たれた自由を手に入れたかのように一瞬の煌めきの瞬間。

好色五人女ワゴンは背負った過去の業が災いし、滋賀の田舎道爆走中に白バイ警官が「停まりなさい!」追跡開始。美也子がカセットで流すピンクレディ「モンスター」走る社内から白バイに向かってストリップする挑戦的なシーン、ロマンポルノ史上に残る名カットでは。

おまんに当たる万子役の山口美也子は天涯孤独、旅から旅へ全国の劇場を廻るストリッパーから男と落ち着きたいとピンサロに転向したはずなのにサツの取締りが厳しくなりワゴン車で雄琴に旅烏で元の木阿弥。でも元ナマ板ショーマニアで今は呼込みの浅見小四郎と出会ったw

私が本作の影の主役と思うミツ役の松田瑛子。水道修理工と駆け落ちし琵琶湖に入水無理心中を図り相手だけ死んでガス中毒自殺を図った所を元自衛隊員の山下洵一郎に助けられた。山下が大手ピンサロチェーンを辞め独立して以降は死神のような瑛子と運命を共にする。

ナナは、上野駅コインロッカーで生まれた捨て子。恋人酒井昭は指名手配テロリストで自家製時限爆弾を新宿のコインロッカーに隠してる。警察に追われ長襦袢サロンを訪れた酒井はナナと最後に愛情溢れるFUCKし逮捕された。絶望の淵に沈むナナに残された、未使用の時限爆弾。

ツル役の宮井えりなは、山口美也子に負けず生のエネルギー感じさせる魅力的キャラ。競馬にハマりサラ金の取り立てに追い込みかけられる夫(やかた和彦)を一途に信じ身体を売って尽くそうと頑張るがダメ夫はどこまでもダメ。夫の目の前で自害する時の血飛沫がスゲエ!

夏子役の青山恭子は、お夏と同様のキャラでヤクザな色男(中丸信)と恋仲になり身を持ち崩す。真面目な彼と結婚するはずだったのにヤクザに惚れてその情婦に殺されそうになり救った中丸の頬に付いた傷。中丸はヤクザに追われいつ命を落とすかも知れない身で雄琴の私に会いに来た。

魅力的な5人の女たちを観客に紹介し続ける狂言回しのような元自衛隊員(山下洵一郎)と開店屋の井原(砂塚秀夫)。神出鬼没の井原がアウトローの山下にピンサロ、トルコ、長襦袢サロンとサツの取締りといたちごっこの開店早業で山下をサポートし続ける井原の才覚が面目躍如w

挿入歌は全部で21曲も使われてるから、ソフト化の障害になってると思うんだけどw絶対に外せない。全ての曲に意味がある。しかも前半の47分と後半の47分で内容がガラリと変わっていくから、それに従って使われる曲もジャンルが全く違う、目と耳で楽しむポルノ映画。

前半の日常は、新宿の繁華街で警察の目を盗みながら何とか本番サービスしようとして、結局はサツに挙げられてまた一から出直しやり直し、開店屋の井原先生が山下に指南して業態をいくら変えても何も変わらないのはサツと対抗するだけ無駄という脱力感に包まれていく。

山下が行き詰るのは、別にサツとの争いが怖い訳じゃない。世の中のスケベな男どもが何を欲しているのかさっぱり分からんのだ。昔はネグリジェ着て出て来るだけで良かったのに、ピンサロもトルコも上手く行かん、頭を抱える山下の問題はアイディアの枯渇にあった。

そんな悩める山下を井原は「辞めるったって他に金を稼ぐ方法がありますか?」と問い詰め、新商売を続けさせる。そもそも、山下は関西人で、関西ストリップの女王美也子をスカウトして、関西出身のえりなが面接に来て関西風サロンからが新宿での出発点であった。

美也子が朗らかに明るく、ストリッパーからピンサロに転向してきたのと正反対に、他の4人は暗い過去を引きずっている。というより今もその影に怯えている。だから前半のBGMは「軍艦マーチ」「女の操」「時には娼婦のように」裏街道を歩く日陰の風俗にぴったりの曲。

最初は関西風ピンサロから始めて、民芸こけしスタイルとトルコスタイルのダブルバージョン、長襦袢装着の好色五人女サロンと業態変えて来たが新宿はこれでヤリ収め、常連客を招いて閉店感謝の宴で流れる堀内孝雄「君の瞳は1万ボルト」(←成人映画でこの劇伴初めて観たw)

閉店感謝セールでも本番を忘れない山下はwブラックホールタイムと名付け、ささきいさお「宇宙戦艦ヤマト」が店内に流れる中、好色五人女が次々と本番を開始、ところが瑛子が客の島村謙次と対面座位でFUCK中、膣ケイレンを起こし救急車が到着してもう万事休す(笑)

ドン詰まって頭を抱える店長の山下に呼び込みの浅見が「雄琴だ!」琵琶湖だ、移動ワゴンだ、とにかく新宿の裏街道を抜け出して明るい未来を探してみようよ!と前半の陰気くさい展開から一転、浮世絵で5人の似顔絵を描いたw「好色五人女」特製ワゴン車が高速走るw

サービスエリアに到着した段階で5人はノリノリで「ここで移動サロンやっちゃおうか?」トラック運転手をナンパし好色五人女ワゴンに連れ込んでハッスルハッスル!山下は業態を整えようと浅見にビールとピーナッツを用意させ大繁盛の即席ピンサロは刹那的でもある。

山口美也子のダンスは元々ストリップと言うより肉感的に感情を表現力豊かに出す素晴らしいもので、「時には娼婦のように」では硬かった動きが中原理恵「ディスコレディ」に合わせてオープンエアのサービスエリア(これゲリラ撮影?)では元気溌溂と感動的で胸を打つ。

好色五人女ワゴンが雄琴に到着すると開店屋の井原が先回りして待ち構えw居ぬきの物件を紹介、大人のオモチャショーなんてどうかな?とアイディアまで。傑作映画の常、ピンサロやトルコの閉じられた密室空間から絶景の琵琶湖畔ではしゃぐ、好色に見えないw五人女。

元気溌溂の美也子は、客としてナマ板ショーのためにチ〇コに自分で真珠入れて化膿させた(笑)おバカな浅見が大層気に入ってラブラブ状態に。手品師のように花をパッパッと色を変える浅見は実は開店屋の井原にも店長山下にも劣らぬ狂言回しで好色五人女の未来へ案内。

雄琴に着いた途端、これまでずっとピーカンの青空が続いてたのに豪雨になって好色五人女ワゴンの中から落雷で木の枝がバリバリと割れる壮絶な場面に遭遇。それは瑛子、えりな、恭子の3人が背負った業を清算するための雄琴発、自分の運命に決着を付ける日が来た。

恭子に会うために、ヤクザの中丸が雄琴にやって来る。逆にえりなは夫のやかたに会うために雄琴から新幹線で上京した。瑛子は琵琶湖の水面を1時間も眺め続ける老人に興味を持ち話しかけた。3人とも、いつかこうなる運命に導かれ、命を落としてしまう西方浄土の物語。

恭子に会うため遥々、東京から雄琴に訪ねて来た中丸に恭子は大感激。全裸で絡み合う二人、恭子は女の悦びに震え、中丸を見送った直後、彼を追うヤクザの銃弾が胸を貫いた。恭子は自分を責める。私がいなければ中丸さんは命を落とさなかった。全て私が悪いのだ、と。

えりなは上京して自宅を訪ねてみれば、サラ金から逃げ回っていたはずの夫は見知らぬ女と全裸で対面座位で交尾していた。呆然とするえりなは「あなた、見ててください」夫の目の前でビール瓶を割ると尖った破片を喉に突き刺し、東映ポルノチックに血飛沫を上げ絶命。

瑛子は琵琶湖畔で一度、入水無理心中未遂を起こしている、自殺願望の強い女だった。老人ホームから抜け出して来た老人は琵琶湖を眺めながら浄土に行く準備をしていた。二人は琵琶湖畔を彷徨い、挙げ句に入水自殺。二人の遺体を呆然と眺める老人の妻と孫が痛々しい。

えりなが東京の自宅で自殺し、瑛子は琵琶湖に入水無理心中。開店屋の井原に苛立ちを隠せず「辞めた」と吐き捨てる山下に「他に金を稼ぐ当てがあるのか?」と追い詰める井原w山下は好色五人女ワゴン、いやもう三人しか乗ってないけど「ここではないどこかへ」走り出した。

恭子は狂人のように手首にロウソクを垂らして自分の不始末を呪い、麻知子の手には酒井が遺した時限爆弾。暴走する好色五人女ワゴンを追いかけ始める白バイ。美也子が「あー、いやだ、いやだ」やおらカセットのスイッチを入れ、キャーという悲鳴、これモンスターだ!

好色五人女ワゴンの車内にピンクレディ「モンスター」が流れ出し、車中ストリップを敢行する美也子。並走する白バイに向かって挑発するように全裸になって踊る。こうやって聴いてみると「モンスター」って曲、世の中狂ってる、モンスターみたい、という歌詞なんだ!

そして、麻知子の手元の時限爆弾がカチカチと時を刻み続け、田舎道を疾走していた好色五人女ワゴンは「モンスター」の曲が終わった途端に一瞬の不気味な静けさの後、ドーン!という轟音とともに大爆発、炎上!西方浄土に向かって死の灰が煙となって空に舞い上がった。


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