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佐野和宏「海鳴り あるいは 波の数だけ抱きしめていられるか、アホンダラ!」

2022年1月新宿ケイズシネマで、佐野和宏「海鳴り あるいは 波の数だけ抱きしめていられるか、アホンダラ!」 (成人映画公開題「集団痴漢 人妻覗き」)

海鳴りが轟く太平洋に面したひなびた町で紡がれる青春の一瞬を切り取った物語。スポーツ用品店を潰した夫に呆れ、不良少年たちに砂浜で集団暴行される人妻(伊藤清美)実直な民宿経営の夫と暮らしながら、若き日に別れ別れになった元恋人(佐野和宏)を忘れられない人妻(岸加奈子)二人の妖艶な人妻を巡る田舎で都会を夢見る少年に想いを託した青春映画の傑作。

恐らく静岡の伊豆半島の、小さな小さな町で、純朴な田舎少年の18歳の夏。都会に出るか、田舎に留まるか、迷った夏。あの夏の暑い日、憧れの美人の兄嫁と元恋人だった男の哀しい恋愛譚を見た。ヒキで撮った情景は人物ごと豆粒大で動き回り、時にヨセで感情が露になる、画的に最高に表現力豊かな、これは永遠の映像詩。

映像詩に劇伴など要らない。海鳴りの音、花火が打ち上げられる音。ミンミンとセミの無く声。そして風鈴がチリンチリンと涼しさを届ける音。あの夏の風景は少年の頃、これからもずっと続くと思ってた。でも都会に出たから、だけじゃない。失われてしまった日本の美しい音を、声を耳をすませて聴きたい。

ところで(←ところで、じゃねーよw)私は佐野監督と同じ、静岡県の出身だから、私自身もこの映画に登場する田舎の原風景には見覚えのあるシーンが多い。神社の境内で座ってアイスを食べる。見上げるとギラギラと夏の太陽が射す。太平洋の波は静かなようで実は大波。静岡の沿岸部に特有の暑くて熱い夏の日、思い出したような気がする。

方言の「だら」「だに」「ずら」アホンダラも含め(笑)静岡~長野の人しか使わない、上京したら恥ずかしくて使いたくない語尾。例えばドカベンの殿馬は「ずら」連発するモロに遠州の人です(笑)本作の舞台は「だら」だから県東部だね、恐らく。方言って、その土地に居る時は使ったけど、都会に出ると忘れる、だから一度、静岡を離れたら「だら」使わない、けど、「アホンダラ」使うw

田舎者にしか分からないシチュエーションってある。それは高校を卒業する時、これが人生で最大の転機、だったはず。田舎に残る者、進学で都会に向かう者、その一生はここで決まる。その後、故郷に帰ることはあっても、18歳の時の選択肢って、実は重すぎる程に重い。

進学校に通ってたら、静岡の少年少女は、まず間違いなく都会に出た。東京、名古屋、京都、大阪。静岡は日本のど真ん中だから、北海道から沖縄まで、津々浦々に散らばる。同窓会で静岡に戻る日もあると思うが、生活基盤はよそに移る。でもその一方で、全国各地から就職で静岡にやって来る。

静岡は人の出入りが多いのだ、田舎だって例外じゃない。でも、海沿いの小さな町に限って言えばどうだろう。出ていく人だけで、入って来る人は少ない。って言うか、ほとんどいない。過疎が進む。少年時代に駆け回った野原も校庭も神社も、やがて人がいなくなるとともに消滅する、美しい日本の原風景。

佐藤寿保、サトウトシキと色々ギミックを駆使した個性的な作品を観た後で、佐野監督の作品を観ると、やっぱり直線的で分かりやすい。小細工など一切しないロマンチシズムに満ち溢れた映画で、この甘ったるさ、青春臭さは苦手な人には苦手なような気もしつつ、当の佐野監督自身が照れ屋で、てらいの無い作品だ。

佐野和宏監督が自己主張し続ける、永遠の映画青年であること。田舎の少年だからこそ抱くことができた、大都会への憧憬とその後に来る挫折、夏の海でリア充の頭空っぽな馬鹿どもが「波の数だけ抱きしめて」とか、湘南のイモ洗いの海で気取ってんじゃねえぞ、ゴラァ!こっちは行き場のないどん詰まりの青春送ってんだぞ、ゴラァ!な作品だw

ラストでテロップにドーンと太平洋の海鳴りに重なるように「海鳴り」「あるいは、波の数だけ抱きしめていられるか、アホンダラ!」と強烈なメッセージが提示されるようでいて、実は照れ隠しで本当は「田舎の少年の夢と希望って、都会ほどスカしちゃいねえずら」と言いたいだけ、ちゃうんか(笑)恐ろしく抒情的な作品なんです、実はw

今回のピンク四天王特集の初日、フィルム上映を贅沢にも立て続けに3本の中、本作は一番、ストレートに胸に響いた。佐藤寿保、サトウトシキでもなく、これは自分でも予想外だった(笑)この作品、既に劇場で観てたけど、フィルムで観るのは初めてのこと。田舎の原風景を鮮やかにフィルムに焼き付けた。

フィルムで観た方が画が圧倒的に美しくて迫力があるのは当たり前だけど、本作に関してはまさに「海鳴り」太平洋の大波が引き起こす海が鳴る轟音を、夏休みの地元の少年と元少年だった大人たちの花火を、そして神社の境内を、ワンシーンごとに美しく収めていて、大林宣彦にも匹敵すると思う、私は。

ドドーンと海鳴りが凄まじく、打ち上げ花火や線香花火、蚊帳の中での夫婦生活や岩場での青姦、うーん、これが日本の田舎の夏!(←いや、ちょっと違うんじゃねえかw)佐野が持つ自分の原点となる少年時代の回想としての夏の日が、そのまま再現された映像なのだろう。

人妻の伊藤清美が不良少年グループに輪姦され、人妻の岸加奈子は彼女に憧れる純情少年に入浴全裸や不倫FUCKを覗かれる、という意味では、テキトーに付けられていることが多いピンク映画のタイトルの中でもこれは比較的、的を射ているのか?と言えば、そうでもないw

物語は、夏でも海水浴場としてあまり賑わいはしない。伊豆半島の通称「裏伊豆」と言われる、交通不便で風光明媚な秘境のような雰囲気の小さな田舎町が舞台。この町の出身の、現役の高校生たちと、12年前に高校を卒業してバラバラになった元高校生たちの、2世代の青春を重ね合わせる美しい作品。

まず、現役高校生の部だが、主人公の梶野考は元々が内トラの人なのかな?自然体と言えば聞こえがいい、等身大の田舎の高校生を演じてる。彼の遊び仲間がヤンキー然とした吉本直人と、凸凹コンビのヤン坊、マー坊みたいなw広瀬寛巳&今泉浩一で、この二人が高校生に見えないと、この作品は楽しめません(笑)

一方、元高校生だった三十路の大人たち。同級生は岸加奈子と伊藤清美と佐野和宏と小林節彦の4人。小林は同級生だった加奈子と結婚して民宿やってる。清美はスポーツ用品店を営む元高校球児の旦那持ってるが店潰して家庭は荒れてる。そして佐野は、都会から12年ぶりにフラリと戻って来た。

軸となるのは、若い頃に熱烈に恋愛しながらも、別れてそのままになっていた加奈子と佐野に焼けぼっくいに火が付く、典型的な展開なんだけど、佐野監督の岸加奈子への思い入れが異常なまでに熱く、激しく、自分の母親世代のイメージなのかな?浴衣姿が良く似合う、和風の熟女。

ここは田舎だから、女性は浴衣着る。日本の夏、金鳥の夏。蚊帳を張って寝る。夜は蚊帳の中でセックスするが、縁側は開けっ放しだから覗かれ放題。風呂だって、部屋だって、見ようと思えば女性のハダカは見られるし、声だって漏れて来る。日本の田舎者は敢えて、見なかった、聞かなかった、確かにそういうことだ。

開巻すぐ、清美が浴衣姿をはだけ、いかにも暴走族風の吉本にガンガン犯されてる。目は宙を泳ぎ、絶望の中で犯されている彼女は、砂浜の上に打ち上げられた波の中に沈む金魚の死骸。それを遠方から覗き込むヤン坊マー坊は「俺たちもヤリてえなあ」でも、彼らにそんな勇気は無かった。

そんな遊び仲間の一人、梶野は悶々と田舎の退屈な日々を過ごす高校生。兄嫁の加奈子は色っぽくて凄く美人で、兄の小林が正直、羨ましい。こっそりと加奈子の入浴姿、ヘアヌードを覗き見するが、インキン持ちの兄貴のハダカまで覗いてしまい悶絶、これもまあ、田舎ではよくあること(笑)

梶野にとって退屈過ぎる日常の中、トンネルをくぐるシルクハットのシルエット。佐野、佐野じゃねーか!彼は12年ぶりに田舎にフラリと戻って来た。そして小林の民宿に逗留。当然ながら妻の加奈子とは12年ぶりの再会で、二人とも危険な予感がする「俺たち、ヤッちゃうんじゃない?」

小林は妻の元恋人佐野の登場で思わぬ興奮を覚え、いつもより激しく加奈子を抱いた。正常位でガンガン突く彼は、加奈子が佐野と再会した、その興奮で頭に血が上り、ギンギンに勃起してしまった。「俺、明日は家を空けるからよう」民宿に泊まっている佐野と二人っきりだ、お前、ヤッちゃってもいいぞ!そんな小林に「勝手なことしないでよ」怒る加奈子。

清美は帰宅すると、夫の上田耕造がスポーツ店潰したまま元気がなく勃起しないことに苛立ちが頂点に達していた「たかが店を潰したくらいで」蚊帳の中で仰向けの上田に跨って乳首舐めからフェラ「元気にしてあげるわよ」でもどうしても勃起しない上田のチ〇コ。清美は夫に呆れ果てた。

小林は気を利かせたつもりで「夜の砂浜で同窓会、しようや」清美も呼ぼう、佐野も呼ぼう、そして加奈子を連れてこう。小林はみんなを盛り上げようと、英語教師の「ディース?ノーノー、ディース!」モノマネがスベッてる小林(笑)みんなで花火をして盛り上がる。田舎の宵闇にロケット花火が打ち上げられ、そこだけが明るく光った。

その頃「子供は御留守番」一人、民宿で待つ梶野は退屈しのぎに佐野の部屋に入り、カバンの中に見つけてしまったんです。覚せい剤の袋と拳銃。「そうか!」(←これは確かにそうか、だなw)佐野は訳ありで帰郷したんだ。東京で何か、ヤバいことしたんだ!

夜の砂浜では、清美と小林が気を利かせて、佐野と加奈子は二人っきりで話し始めた。線香花火をしながら俯き加減の加奈子のうなじの色っぽさにドキッとする佐野、でも加奈子はなじった「どうして12年前、勝手に東京に行っちゃったの?」二人は愛し合っていた。でもある日、佐野は突然姿を消し、上京した。

加奈子は「男って勝手よ!」でも帰宅すると小林は「明日、家を空けるからな」と念を押す。暗に佐野との逢瀬を楽しめというサインにますます苛立ちが募る加奈子。でも、小林が出かけると、加奈子は佐野の部屋を訪れ、言った「これは未練じゃないの。あなたを忘れるためなの」

佐野も同じだった。俺だって加奈子のことを忘れたい。浴衣を脱がせ、おっぱいを揉み、そして正常位でグイッと腰を入れて挿入。きつく抱き合ったまま、12年ぶりの感触を確かめ合うように求め合う二人。思わず喘ぎ声が大きくなってしまう加奈子。憧れの兄嫁が獣になった瞬間の声を、梶野は廊下で聞いて堪らない気分になった。

翌朝、路地で梶野は佐野とすれ違う、神社の境内で美味しそうにアイスを食べる佐野。梶野は空を見上げギンギンに輝く青空に眩暈がした。「東京ってどんなとこなの?」佐野は「お前も都会に行きたいのか?」梶野はまだ分からなかった。俺、このまま田舎に残った方がいいのか?都会に出た方がいいのか?

清美が吉本を逆ナンして、また砂浜で浴衣をはだけてバックから犯されてる。それを見つめるヤン坊とマー坊「お前らもヤレ!」意を決して清美に襲い掛かるヤン坊、正常位でガンガン腰を振り射精、続いてマー坊も。死んだ金魚のような清美の目を見て、梶野はどうしてもヤル気になれず、眼を背けた。

ここに佐野が登場「お前ら、何やってんだ!」吉本を半殺しにすると、清美を助け出し、梶野に「お前、これからどうするんだ?」吉本の家に乗り捨てたバイクを返しに行くことしかできない梶野。そんな彼は、海辺をバイクを引きずって歩いている途中、ヤン坊とマー坊の声がする。

「あいつじゃねえのか?」佐野は砂浜で殺し屋に拳銃を突きつけられていた。撃たれて即死、それを見た瞬間、梶野は決心する「東京に出よう!」ボストンバッグ一つ抱えて、ローカルバスを待つ梶野に、無職の上田が「お前、どこに行くんだ?」梶野は「おじさん、高校野球で甲子園行ったんでしょ」

梶野はエアボールを上田に渡し「取ってよ」もし取ってくれなければ、やっぱり東京に行けないのだ。上田は意を決してエアボールを受け取り、砂浜で投球モーションに入った。梶野は「ピッチャー上田君、背番号無し、9回ツーアウト満塁の大ピンチ、さあ、投げました!」梶野の目に涙が溢れた。今日初めて、彼は住み慣れた田舎を出る。

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