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上野俊哉「1985年6月18日にあったこと」

ラピュタ阿佐ヶ谷で、上野俊哉「1985年6月18日にあったこと」(成人映画公開題「実録異常性犯罪 甘い罠」)

1985年6月18日、金先物取引の強引な訪問販売で社会問題化した悪質業者豊田商事の会長刺殺事件をモチーフに、会長(紀野真人)は瓜二つのホームレスに成り済ますが、成り上がりを目論む部下(本多菊次郎)に鉄パイプで撲殺された、という仮説で一気に見せる、近年では珍しい、クールで見ごたえある実録犯罪映画。

やっぱりね、現実としてあれだけ色々なことが起きた豊田商事会長刺殺事件のセミドキュメントを60分尺で撮るの、絶対ムリ!って本作が証明してる。実際に起きた実話だからこそ、描き切れない不気味な闇とか気持ち悪さが却って頭に浮かんで来て困ってしまうんだけどw

上野監督は恐らく生真面目な性格で、アドリブが苦手なんだろう、実録犯罪ドラマってまんま描くとリアルすぎるから所々に間の抜けた画を入れてちょうどいい位なのに、それと思われるコミカルな場面まで生真面目に撮ってしまってる感があり、観ていて肩凝るのは確かだw

凶悪犯罪を淡々とありのままに描いた演出は、その後の上野監督の傑作群、例えば「竜神と朱蓮華」のベースになったのではないかと思う。実際に起きた事件の再現ドラマだからこそ、よりおどろおどしくて恐いのは今村昌平「復讐するは我にあり」が証明してるではないか。

でも本作で最大の問題点って、実話がセックスに結び付くようなエピソードのほとんど無い内容だから、無理やり話の流れに関係なく濡れ場を強引に挿入してる感じで、その度に演出がリセットして上手く流れない。題材がピンク映画向きじゃないし、克服する術も無いまま。

物語については、上映前に劇場に掲示されているプレスシートで予習しておいて良かった。と言うか、演出が省略のオンパレードでシンボリックな表現が多すぎ(笑)どこの記号論者だよ!とツッコみたくなる位に前後に繋がりが欠けるキライあり、予習してなかったら寝たw

とは言え、プレスシートに書かれているあらすじの通りかというと脚色は当然施されており、事実をトレースしたとすればかなり尖った内容、政治の腐敗とか悪徳商法の負の連鎖のような社会問題をかなりシニカルに描いてる。見ごたえある作品に仕上がっていると思う。

タイトルからも、渡辺護が大久保清事件をタイムリーに映画化した「日本セックス縦断 東日本篇」のようなセンセーショナルでスキャンダルなセミドキュメントを志向していると思われるが上手く描けていない。恐らく90年代に入って映画界も色々自主規制が顕著になった頃と思う。

そもそも、豊田商事会長刺殺事件とは、マスコミが現地報道している目の前で殺人事件が起きたという、前代未聞の劇場型犯罪であり、これをどう映画化したって現実に敵いっこない。とは言え、滝田洋二郎「コミック雑誌なんかいらない」のビートたけしのリアルな演技は凄かった。

で、劇場型犯罪が生中継で、余りの凄惨な現場に観る者は震撼し、更にビートたけしが滝田監督の演出で現実を超えるようなど迫力で再現して見せた訳です。そんなハードルの高い題材に挑戦したことに敬意を評したいが、当然ながらアプローチはバイオレンスではなく人間ドラマだ。

舞台となる、金の先物取引で強引な訪問販売する会社は豊川商事、詐欺商法で散々儲けた会長(紀野真人)が香港へ高飛びするため自分に瓜二つのホームレスを探し出し成り済まそうとする。会長に忠実に従って来た部下(本多菊次朗)は虎視眈々と一発逆転のチャンス狙ってる。

物語のキーマンは、政界の息のかかったフィクサー(牧村耕次)で仕事料は5億円。会長と瓜二つのホームレスを豊川商事に誘きだしヤクザに劇場型犯罪で殺害させ、会長自身はホームレスとして一旦潜伏し海外に逃亡する段取りを全部付ける。でも部下の本多が知ってしまうのよね。

豊川商事のヤリ手社員だった本多が、政界経由フィクサー牧村に見込まれ、運命の1985年6月18日に自らの手でホームレスに化けた会長を撲殺し、第二の豊川商事が出来てしまって悪はのさばり続けるという、読後感が非常に悪いウィークエンダー的な仕上がりとなっておりますw

ヒロインの林由美香は、会長と瓜二つのホームレスに金を握らせヤらせてあげる謎の女。本多は由美香を彼女を買収し、まんまとホームレスと入れ替わった会長が安心して河川敷のテントで由美香とセックス中で無防備な時を狙い易々と撲殺した。でも濡れ場には集中できないw

会長の愛人で、妊娠中絶を迫られる可哀想な女を演じる伊藤舞。濡れ場は女優3人の中で最も激しく淫らで扇情的、ポルノグラフィとしては彼女が一番印象に残るが、異常性犯罪者の血が流れる子供を産んではならない、みたいな重いテーマは予想通り時間切れで結末は無い。

水鳥川彩は、本多の悪徳訪問販売にコロッと騙され、「金の先物取引で儲ければキレイな服着て町を歩ける」甘言に思わず欲情し(←どうしてそうなるんだよw)仰向けの本多に跨って騎乗位で腰振る純然たる濡れ場要員なんだけど、演技の見せ場も無くて、なんか可哀想w

私が最も印象的に残った二つの場面。一つは冒頭、本多がだだっ広い会議室でラジオ体操してから営業に出かける場面。そしてもう一つは海パン姿の会長と本多、それにフィクサーと手下の4人が海を眺めながら悪だくみを打ち合わせる場面、ホントはここで笑いが欲しいw

冒頭から数分は、本多が豊川商事の社員として朝のラジオ体操に始まり、500円玉落ちてました手口で玄関から巧みに宅に上げてもらい、主婦の彩を相手に「ほら、軽いでしょ」金のパンフレットを持たせ「こんなずっしり重くなるんですよお」どこかで見た手口にそっくりw

豊川商事の紀野会長は、バケモノみたいな奴。既に金の先物取引は悪徳商法として国会で問題になっており、彼の考える次の手段は国会議員に賄賂を贈り、自らは金を持って香港にとんずらする。そのために身代わりを仕立ててヤクザに目立つ形で殺害させるという寸法だ。

紀野会長に愛人の舞がいて、妊娠中絶を迫られているのはサイドストーリーとして置いといてw本筋としては本多がホームレスの紀野とそっくりな男と出会い、しかも娼婦と思われる由美香が大金を渡してセックスしてる、「あれは誰なんだろう?」紀野会長を問い詰めた。

本多は紀野会長に誘われ海水浴。海パン一枚で砂浜に座っていると、フィクサーの牧村が手下を連れてパンイチで現れた。背後からパンイチの男4人を撮るカットはゲイポルノそのものだが(笑)あまり意味は無い。取引の内容は、紀野会長を身代わり殺人する手数料の話。

由美香が大金を払っていた、紀野にそっくりな男がターゲットで、彼を由美香におびき出させて豊川商事の会長の椅子に座らせる。紀野会長本人は一旦ホームレスとなって由美香と共同生活でカムフラージュした後、金を持って香港に発つ。牧村は紀野会長に「5億円なんて安いもんだ」

ところが、です!牧村は夜の街で再び由美香を見つけると「君を買ってもいいかな?」ホテルに誘い込み、対面座位で濃厚な一発!このシーンの由美香の痴態は本多に恋した体で艶めかしく、テレビのウィークエンダーここまでやってくれたら良かったのに(←ムリだろw)

本多が意を決して由美香と待ち合わせ場所に向かう、劇的なカットに劇伴で流れるメロディがロマンチックでここカッコいい!由美香が壁際に立っていて、一瞬あいさつした後、フッと消えて壁だけ映ってる。そして時制が1985年6月18日の決戦の日へとワープ。分かりづらいw

牧村と二人きりで会った本多は「紀野会長が香港への逃亡を企てている」情報をりーくされた。信頼していた紀野会長が裏切って一人だけ香港に高飛びするなんて!もう俺、怒ったぞ~!となって全てはフィクサーの牧村、更には背後の国会議員の思うがままの作戦通り。

国会議員は、フィクサーの牧村を使って自分が闇献金を受け取った、世間で非難轟々の豊川商事事件を何とかスッと忘れさせる形で幕引きたい。紀野会長は身代わりのホームレスをヤクザに殺させる腹、どうせなら劇場型犯罪にして盛り上げちゃえ、世間の目はそっちに行く!

1985年6月18日、3つのカットが次々と重なっていく。一つは河川敷でホームレス姿でまるでレイプするように由美香をガンガン犯してる紀野会長。その現場に急行する鉄パイプ持った本多。そして豊川商事の会長室に殴り込みをかける、いかにもヤバそうなヤクザ2人組。

ヤクザがバリーンと窓ガラスを割って、強引に会長室に乗り込み会長を刺殺!したその時、河川敷で由美香ワッセワッセ犯している紀野会長の背後に鉄パイプを持った本多が近づき、後頭部を何度も殴りつけ、殺した。全ては国会議員の思惑通り、豊川商事は無事始末された。

マスコミを騒がせる豊川商事会長刺殺事件。でも本物の会長は部下の本多の手によって始末され、新会社の会長に座ったのは本多。携帯電話で配下の訪問販売員に檄を飛ばしている。「この商売なら違法にならん。契約取って来るまで帰ってくんな!」と恫喝。こうして第二の豊川商事は生き延びるのであった・・・

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