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佐野和宏「Don't Let It Bring You Down」

2022年2月国立映画アーカイブで、佐野和宏「Don't Let It Bring You Down」 (成人映画公開題「変態テレフォンONANIE」)

Don't let it bring you down へこたれるんじゃねえぞ 
It's only castles burning ただ、お城が燃えてるだけだ
Find someone who's turning 誰か助けてくれる人を探すんだ
And you will come around そうすればもっと良い明日が待っている

航空自衛官(佐野和宏)が機密文書を手に父の死に目に会いたい妻(岸加奈子)の実家に向かう途中、映画青年と出会いこっそり手引きして貰うが国家権力の手により殺害された。青年は8mm映写機で2人の死に顔とコックピットと青空を重ねた、ロマンチックな反戦映画の名作。

ロマンチシズムとエロスもそこそこに、反戦が色濃く出た、ピンク四天王の作品の中で頭一つ抜けている、というか、ピンク映画というジャンル要請があるからこそ普段はここまでメッセージ色が強い映画は撮れない訳で、本作に関してはかなり冒険したなあ、という思いで観た(笑)

まず特筆すべきこととして、監督と助監督がダブル主役という、ピンク映画じゃなくてもなかなか観られない特殊さ(笑)佐野和宏監督がカッコイイ二枚目の主役なのは通常運行だが、世代を超えたもう一人の青年期の主役を助監督の梶野考が演じている。これが絶妙なスパイスになって去りゆくものの残した平和のメッセージを受け継ぐ、普遍性のある名作に仕上げた。

女優部に関しては、岸加奈子は佐野和宏と愛の逃避行をひたすら続けるので、冒頭の一回しか濡れ場が無く、加奈子の妹で瀕死の父親(津崎公平)を世話する高木杏子にタイトル通りのテレフォンオナニーを突拍子も無く二回登場させてピンク映画としてのジャンル要請を完遂、三番手に今泉浩一を女装させてきたのは笑ったw

会社が買取り拒否してもおかしくない凄さなんだけどwそうならなかったのは、映画自体の出来がスバ抜けて良かった、こういう作品をちゃんと上映しなきゃダメだ、という映画界の良心と私は勝手に理解しました。これなら、成人館で普段はウトウトしながら観てる爺ちゃんたちも、スクリーンに引き込まれながら観る可能性、高いからね。

ところで(←ところで、じゃねーよw)助監督兼準主役の梶野考が歌うように喋る「うひは、へんてこりん」という文字通りへんてこりんな台詞、三回登場します。いずれも物語の栞と表現してもいい、凄く大事な転部使用させているのと同時に、映画が暗い内容なので少しでも明るくしようという工夫も感じます(笑)

まあ、佐野と加奈子の愛の逃避行を中心としたメロドラマ、佐野が国家機密を持ち出して命を賭けてまで主張しようとする「徴兵制反対!」そして、高木杏子がプロットとは全然関係なくスケベ心を満たしてくれるテレホンセックスオナニー、更に愛好家の人には女装子の今泉浩一が自衛官で特高っぽい上田耕造にガンガン犯される倒錯的な濡れ場もあるw

物語は、佐野が加奈子と森の中を手に手を取り合って愛の逃避行。途中休憩で、佐野が背後から加奈子のスカート捲り、パンストの上からアソコを手マンした後に、脱がせて野外FUCKする。二人の心中めいた観念的な美しい場面から物語は始まり、加奈子が目指しているのは彼女の実家、そこには余命いくばくもない父親。

杏子は父親と田舎の実家暮らし。遠距離恋愛の彼氏にテレホンセックスを挑まれて、受話器を片手にパンティの中のアソコをまさぐりながら激しくオナニー、ああ、これがテレフォンオナニーって奴かあ、っておいおいw物語と全然関係が無いんですけどwww杏子は終盤、梶野とイイ仲になっていくが、テレホンオナニーしかしないw

佐野と加奈子は実家に向かう手段が徒歩しかなく、あぜ道を歩いていると、ワゴン車の梶野が通りかかり「うひは、へんてこりん」どうも梶野は映画かぶれの青年で、自主映画を作って全国キャラバンしながら放浪してるらしい。航空公園に立ち寄り「この戦闘機はなあ」知識を開陳する佐野。なぜそんなに詳しいのか?彼は航空自衛官だった。

佐野と加奈子を追う、怪しい影二つ。元は佐野と同じ航空自衛隊で仲間だった上田耕造他1名は、機密文書を持ち出して失踪した佐野を探して遥々、加奈子の実家がある田舎までやって来た。佐野を秘密裏に消そうとする上田は男娼の今泉を買い、ガンガン犯した後、必ずパンティを持ち帰る。そのパンティ何に使うの?今泉は不思議だった。

佐野と加奈子の身の上話を神社で聞いた梶野は急な石段をゴロゴロ転がりながら二度目の「うひは、へんてこりん」自主映画の上映チラシの裏に加奈子が泊まっている旅館の電話番号を書いて杏子に渡しに行く梶野は、帰り道で付近を張っている上田を見つけ「うひは、へんてこりん」これ、すぐに佐野さんに伝えなくっちゃ。

夜の上映会。佐野と加奈子は寒い屋外で身体をぴったりとくっつけ、コートを羽織って自主映画を観る。暖をとるためのドラム缶から上がる炎が二人を幻想的に照らした。でも梶野の撮った自主映画の内容は酷いものだった。佐野は「あまりにもひでえよ、これ」でも、加奈子は「青空がきれいね」時折、映画の中に挿し込まれる青空。その青空には野球のボールが高々と上がっているように見えた。

梶野が手引きしてくれたことで、ようやく加奈子は父親の津崎の病床にたどり着いたが、彼は既に亡くなって、看取ることも出来なかった。ワンワン泣き崩れる加奈子を見て自責の念にかられる佐野。その頃、梶野は別室で佐野が航空自衛官時代に起こした不祥事の新聞記事に見入っていた。

「あの人、航空自衛隊のパイロットだったのか」同時に、彼が地上勤務に配置転換された理由も分かった。彼は謎の飛行でスキャンダラスな話題になった後、秘密裏に国家が進める徴兵制度復活の機密文書の入手に成功した。そして脱走、加奈子の父親の死を看取った後、次の世代に未来を繋ぐため、行動を起こすつもりであった。

梶野は作戦を思いつく。上田が実家の電話に盗聴器を仕掛けていたのは把握済み。加奈子から杏子に電話を入れさせた「明日の午後一時の汽車で田沢駅を発つ」わざと聞こえよがしに上田の耳に入れて、梶野だけその時刻に田沢駅に行った。まんまと田沢駅に来ている上田。梶野は上田たちがそのまま電車に乗る所まで確認しなかった。浅はかな梶野w佐野は「ホントに確認したのかよ」と不信感、でも助けてもらっているだけで恩義。

佐野は隙を突かれて上田たちに捕らえられ、廃工場に連れ込まれ、リンチされた「お前を懲戒免職にすれば全てが済むというわけにはいかない。永遠に口止めしなければ」そして取り出しましたる今泉のパンティ。これを口の中に詰め込んで窒息させ、変態の仕業にして国家権力に抗う者を始末する。それが奴らのやり方だった。上田は憎々し気に「逆らわなきゃいいんだ。強いものに従ってりゃ良かったものを」

そして、ひっ捕らえられた加奈子も、今泉のパンティを使って絞殺され、口の中に放り込まれた。駆け付けた梶野に上田は捨て台詞を吐く「お前らみたいな平和かぶれの腑抜けが、何もできる訳ないんだよ」鬼の形相で上田らを見送るしか無かった梶野は杏子に声をかけて、博物館の中に佐野と加奈子の遺体を運びこんだ。

梶野は「佐野さん、俺、一世一代の自主上映会、してやんよ!」スクリーンを張り、その前に戦闘機のコックピットを置き、手前に佐野と加奈子を並べた。映写を始めると、いつか加奈子が「きれいな青空ね」と言った空が広がり、その前にコックピットと死に絶える佐野と加奈子。梶野は志半ばで死に行く佐野に涙した。

梶野はワゴン車に乗り込み、この田舎町を去る。杏子が手を振り、梶野を見送った。佐野が小五と小一、二人の息子と楽しそうにキャッチボールする光景。あの時の青空は、野球のボールが吸い込まれる、きれいな青空であった。

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