見出し画像

[西洋の古い物語]「天使のお小姓」

こんにちは。
いつもお読みくださり、ありがとうございます。

職場でロシアケーキをいただきました。
ロシアケーキは直径5㎝ぐらいの大きめのクッキーの上にジャムやチョコレートなどのトッピングをしたお菓子です。クッキーは二度焼きしているそうで、カリッとした食感とトッピングの甘さが絶妙にマッチしています。
私がいただいたのは、ホワイトチョコレートをかけたものでした。

ロシアケーキを食べたのは久しぶりでした。
小さい頃、時々パルナスのロシアケーキの詰め合わせが家にあった記憶があります。どなたかのお土産だったのかもしれません。テレビアニメの「世界名作劇場」のコマーシャルで流れていた、パルナスのあの郷愁を誘う歌、「パルナス、パルナス、モスクワの味」というフレーズが懐かしく思い出されます。パルナス社は2002年に企業清算、解散したとのこと。知りませんでした。なんとも寂しいことですね。

職場でいただいたのは栄光堂製菓さんのもので、ホームページを訪問してみると、安心・良質な素材で作られた見た目も美しく豪華なロシアケーキの数々が紹介されています。よろしければご覧になってみてください。


それでは前回に引き続き、ライン河畔を舞台とした物語を訳してみたいと思います。

※ 画像は、アントン・ラファエル・メングス「聖ヨセフの夢」(1773ー1774)より、美しい天使の部分をパブリック・ドメインからお借りしました。

「天使のお小姓」

ある時、一人の容貌麗しい少年が勇敢で高潔な騎士を探して、小姓としてお仕えする許しを乞いました。騎士は若者の優美な立ち居振る舞いに大いに魅了されましたので、彼の変わった望みに喜びました。騎士は若者の願いを許し、一度たりともそのことを後悔することはありませんでした。

小姓はあらゆる務めをとても朗らかに、巧みに行いました。主人への奉仕に専心しておりましたので、主人の望みはほぼ全て前もってわかりました。少しの間に彼は主人の愛を勝ち得て、二人は変わらぬ絆で結ばれた同志になりました。

年月はすばやく過ぎ去りました。騎士はかつてないほど幸せで、何もかもが上首尾続きでした。あらゆることがまさに彼が望んだ通りになるように思われました。小姓が騎士の館の門を入った日以来、うまくいかなかったことは何もありませんでした。

ある日のこと、二人がライン河の岸に沿って馬を進めておりますと、賊の一団が彼らの方に向かってくるのに気付きました。彼らは何度もこの善良な騎士に危害を加えようともくろんでいたのです。一味の人数はとても多く、勇敢な騎士が彼らに向かっていくことができないことは容易に見て取れました。逃れる方法はないように思われました。

勇敢な騎士は叫びました。
「お前が我が城壁の中にいて安全であればよかったのに、忠実な小姓よ!我々はもうおしまいだ、若者よ。だが、この命をなるべく高く売りつけねばならぬ。さあ、英雄として死のうではないか。私の後ろにまわれ、小姓よ、そしてできることなら逃げるのだ。」

「ご主人様」小姓は答えました。「私についてきて下さい。逃げ道をお示しいたします。こちらです!」

小姓は馬に拍車をあてますと、河岸を早駆けさせました。突如彼は嫌がる馬の向きを変え、逆巻く流れのただ中へとまっすぐに乗り入れました。
「はやまるな、戻ってこい!」と騎士は呼びかけ、向こう見ずな小姓に追いつこうと猛然と進んでいきました。「河の中で惨めに死ぬよりも勇敢に戦って死ぬほうがましだ。戻れ、小姓よ、戻るのだ!」
それでも小姓は、「ご主人様、恐れずに私についてきて下さい」と叫びます。

彼の声は風と波の音にもまして決然として大きく響きましたので、我知らず騎士はそれに従いました。数分後、馬は河の中に固い足場を見つけました。忠実な小姓に導かれ、騎士は無事に流れを渡ることができました。敵が水際に降りてきたまさにその時、彼は向こう岸にたどり着きました。

賊は怒り、馬を深い水の中へと促しましたが、足場の跡形も見つからず、河を渡るのを諦めざるを得ませんでした。

このことの後、小姓に対する騎士の愛は大いに増し、小姓も主人をより一層愛しているように見えました。主人の御前にいるか、主人の御用を行っているときのみ、彼は幸せなのでした。

この幸運な脱出劇の後ほどなくして、騎士の美しい奥方が突然病気になりました。彼は自分の命と同じほどに彼女を愛しておりましたので、彼女が死んでしまうかもしれないと恐れ、ひどく悲しみました。

大勢の名医たちが奥方の枕元に呼ばれましたが、どうすることもできませんでした。医者たちは、彼女を救うことができるものが唯一つある、それは雌ライオンの乳である、と告げました。しかし、その国にはライオンがいませんでしたので、それを手に入れることはできないことでした。

この不思議な治療法の噂はすぐに城中に広まりました。あの忠実な小姓の耳にも入りました。彼はすぐに立ち上がり、広間を駆けだしていきました。1時間の後、奥方の病状が変わらぬうちに、小姓は城へと戻ってきました。

彼はまっすぐ奥方の枕元に行き、腰を下ろしました。顔は真っ赤で、息せききっていました。しかし、手にはカップ一杯の雌ライオンの乳を携えておりました。乳はすぐに患者に与えられました。数分のうちに奥方の蒼ざめた頬には生気が少しずつ戻ってきました。目には新しい光が宿り、彼女は甘美な眠りにつきました。目覚めると彼女はすっかり直っており、全身の力が戻って幸せな気分でした。

そこで善良な騎士は小姓に感謝の言葉をあめあられと注ぎました。それでも、忠実な僕への感謝を十分に言い表すことはできませんでした。騎士は今回のことについて全てを知りたいと思いました。
「我が優しき忠実なる小姓よ」と彼は促しました。「どうやってこの薬を手に入れることができたのか。私の全財産をもってしても入手できなかったというのに。」
「高潔なるご主人様」と小姓は返事をしました。「私は雌ライオンが子供らと一緒にあるアラビアの巣穴に横になっているのを知っていたのです。そこで私は・・・」
「アラビアだと!」騎士は小姓をさえぎって叫びました。「アラビアへ行ってわずか1時間で戻ってきたというのか。」
「はい、ご主人様」と小姓は答えました。「その通りでございます。」そして彼は驚きで色を失った主人の顔を、真実に満ちた美しい目でじっと見つめました。

「若者よ、お前は何者なのだ」言い知れぬ恐怖に胸を噛まれて、突然騎士は尋ねました。「お前は何者なのだ。言え。全てを教えるのだ。」
「ご主人様、高潔なるご主人様、私が何者であるか、どこから来たのかをお尋ねにならないでください」と小姓は騎士の足元に身をかがめ、懇願するように両手を差し上げながら叫びました。
「お尋ねにならずに、私をおそばにおいてください、善良なるご主人様。私がお仕えして以来、あなた様にはいかなる危害も訪れなかったことを思い出してください。」
「小姓よ、そんなふうに頼むのをやめて私が尋ねたことに答えるのだ。お前は何者なのだ」騎士は小姓の懇願には全く注意を払わず、言い続けました。

「天使です、ああ、ご主人様、光の天使なのです。あなたとご家族のために天上の故郷を離れてやってきたのです。しかし、今や、私はあなたのもとを去らねばなりません、ご主人様。さようなら、さようなら。」

「若者よ、愛する若者よ、私のもとを去らないでおくれ。ずっと一緒にいておくれ」と騎士は叫びました。「望むとおりの報酬を求めるがよい。私を捨てないでおくれ。ここにいておくれ、忠実なる小姓よ。お前なしでは私は生きられないのだから。」

「あなたは私が何者でどこから来たのかをお尋ねになり、その上、報酬のことを口になさいました。呪文が解けたのです、ご主人様。ですからもう私はおいとましなければなりません。私があなた様のために朗らかに愛情を込めてお仕えしたお返しとして、森の真ん中に銀の鈴を吊してくださるようお願いします。その鈴のチリンチリンという音は大勢の疲れた旅人たちを導き、故郷への道を見いだす助けとなることでしょう。その鈴を神様と神様の天使たちにお捧げください、ご主人様。それではこれを最後においとまいたします。」

小姓は突然姿を消しました。誰も彼が広間を立ち去ったり城門を通り抜けたりするのを見た者はおらず、足跡もいっさい見つかりませんでした。天使の小姓は人間の目には見えなくなり、天上の故郷へと戻ったのでした。彼は自身と同じく善良で忠実で清らかな天使たちと暮らすために帰ってしまったのです。

騎士はただちに銀の鈴を森の中に吊させました。しかし、彼は忠実な小姓のことを忘れることができませんでした。彼は小姓をあちらこちら探し回り、静かな夕暮れ時にその小さな鈴の涼やかな音が響いてくるときには、その音はまるで天使の言葉であるように彼には思われ、彼の胸をやむことのない望みで満たしたのでした。

高潔な騎士は人生におけるあらゆる関心を失ったようでした。力は弱り初め、歩みも遅く弱々しくなっていきました。そしてある日のこと、夜の帳が落ちかかり、あの小さな鈴の音がその夜はじめて彼の耳に届くと、彼は静かにつぶやきました。「小姓よ、我が忠実なる小さな小姓よ。」そして彼はこの世を離れました。よく愛するということを彼に教えてくれたあの天使と一緒に暮らすために。

これで「天使のお小姓」はおしまいです。
使用テキストは次の通りです。

今回も最後までお読みくださり、ありがとうございました。

次のお話、「ノームの道」はこちらからどうぞ。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?