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[西洋の古い物語]「鳥の王」

こんにちは。
いつもお読み下さり、ありがとうございます。
今日は、鳥たちが王選びをするお話です。
ご一緒にお読みくださいましたら幸いです。

※画像は、ヘクター・ジャコメリ『鳥の止まり木』(1880年、部分)です。小鳥たちがぎゅうぎゅうに並んでいます。左から4番目の子が何か話していますね。他の鳥たちはちゃんと聴いているのでしょうか・・・?

 
「鳥の王」
 
 ある日のこと、鳥たちは、主(あるじ)を持ちたいものだ、自分たちの中から一羽が王に選ばれねばならぬ、と思いつきました。鳥たち全員の集会が召集され、ある五月の麗しい朝、森や野原や牧場から皆は参集したのでありました。鷲、コマドリ、ルリツグミ、梟、雲雀、そして雀も皆そこにおりました。郭公も来ましたし、タゲリやその他言い尽くせないほど多くの鳥たちがやって来ました。一羽のとても小さな鳥もやって来ましたが、その鳥には名前がありませんでした。
 
 その場は騒がしく、たいへんな混雑ぶりでした。ピーピー、シュッシュッ、さえずったりお喋りしたり――そしてとうとう、一番高く飛ぶことができた鳥が王になるべき、と決まりました。
 
 合図が出され、全ての鳥たちは大きな一かたまりになって空へ飛び上がりました。翼をはためかせる音がサラサラ、ブンブン響き渡りました。空は埃に満ち、まるで黒雲が野原を覆って漂っているかのようでした。
 
 小さい鳥たちはすぐに疲れて、早々と地上へと降りてきました。もっと大きな鳥たちはより長く持ちこたえ、高く高く飛んでいきましたが、鷲が誰よりも高くまで飛びました。鷲はぐんぐん昇っていき、真っ直ぐ太陽に飛び込むかと思われました。
 
 他の鳥たちは諦めて、一羽また一羽と地面に降りていきました。それを見て鷲は思いました。「これ以上高く飛んでも何の益があるだろうか。もう決まりだ、我輩が王だ!」
 
 下にいる鳥たちは声を合せて叫びました。「お戻りください!あなたこそ私たちの王です!あなたほど高く飛べる者はおりませんから。」
 
 「私を除いてはね!」と細く鋭い声叫び声がし、例の名無しの小さな鳥が鷲の背中から身を起こしました。その鳥は鷲の羽毛の中に身を潜めていたのです。彼は空中へと飛び出し、高く高く、姿が見えなくなるまで昇っていきました。そして翼をたたむと、鋭い声で「私が王だ!私が王だ!」と叫びながら地面へと降りてきました。
 
「お前が我らの王だと!」と鳥たちは怒って叫びました。「ごまかしとズルじゃないか。お前が私たちに君臨するなど認めないぞ。」
 
それから鳥たちは再び参集し、王になるための別な条件を設けました。それは、地中に最も深く潜れる者が王となるべき、というものでした。
ガチョウは砂の中で転がりまわり、アヒルは必死で穴を掘りました!他の鳥たちも皆、地面の中に身を潜めようと努めました。例の名無しの鳥はネズミの穴を見つけ、そこに潜り込むと叫びました。
「私が王だ!私が王だ!」
 
「お前が我らの王だと!」と鳥たちは先程よりももっと怒って再び叫びました。「お前のズルのご褒美に我々がお前を王にすると思っているのか。とんでもない!飢えて死ぬまでお前を地下にいさせてやる!」
 
 というわけで、彼らは小さな鳥をネズミの穴に閉じ込め、昼も夜も注意深く見張るよう梟に命じました。そして鳥たちは皆、とても疲れていたものですから、家に寝に帰りました。しかし、梟はひとりでじっとネズミの穴を見張っているのが寂しくなり、うんざりしてきました。
「片目だけ閉じて、もう片目で見張ればよい」と梟は考えました。そこで彼は片方の目を閉じ、もう片方でじっと見張りました。しかし、いつのまにか彼はその片方の目を開けておくことを忘れ、両目ともぐっすり眠り込んでしまったのです。
 
 名無しの小さな鳥はネズミの穴から外を覗き、梟殿の両の目がかたく閉じられているのを見ますと、彼は穴からするりと抜け出して、飛び去ってしまいました。
 
 この時以来、梟は、鳥たちが自分を八つ裂きにするのではと恐れ、昼間は決して姿を現さなくなりました。彼は夜の間だけ飛び回り、あの小さな鳥が潜り込めるような穴を作ったことでネズミを憎み、追いかけ回しているのです。
 
 そして、あの小さな鳥も、見つからないよう姿を隠しています。何故なら、あのときズルをしたことで他の鳥たちが自分を罰するのではないかと恐れているからです。彼は生垣の中に隠れていて、十分安全と思える時には「私は王だ!私は王だ!」と歌声を発します。

 すると他の鳥たちは嘲って叫びます。「そう、その通り、ヘッジ・キング(生垣の王様)、ヘッジ・キングだ!」
 
 
「鳥の王」はこれでお終いです。

 このお話の別なバージョンでは、昔、全ての鳥を招いてお茶会を開いた郭公夫人が「王様選び」を提案したことになっており、「名前の無い小さな茶色い鳥」も招待されていた、と書かれています。ですから、ヘッジ・キングについては、ヨーロッパカヤクグリ(英語名dunnock。生垣イワヒバリhedge accentor、生垣スズメhedge sparrowとも呼ばれるそうです)のような小さな茶色い鳥をイメージして訳しました。

 皆の上に立つ者は、やはり皆から信頼され、尊敬される者でなければなりませんよね。ズルをして王様になろうとするなんて愚かなことだと思います。せっかく集会で話し合って王たる者の条件を皆で納得して決めたのに、それを守らずズルをするような者は王様にふさわしくありません。

 それにしても、鳥たちが2回目に決めた「一番地面に低く潜れる者」というのは、ちょっとよくわからない条件ですが、こんなことも集会で賛同されれば決まってしまうところも、民主主義の危ういところかな、と思いました。

最後までお読み下さり、ありがとうございました。

このお話の原文は以下の物語集に収録されています。

次回をどうぞお楽しみに。

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