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『7人の聖勇士の物語』第4章(1)

こんにちは。
今回もお読みくださりありがとうございます。

いつも作業しているパソコンの傍らに、小さな天使の像を置いています。
背丈は5㎝ぐらい、石膏でできた白い天使です。奏でている弦楽器はリュートでしょうか。この天使は、友人夫妻が何年か前にイタリア旅行でヴァチカン宮美術館を訪れた際に、ミュージアム・ショップで買ってきてくれたお土産なのです。
(ヴァチカン宮美術館、私も一度は訪れてみたいものです・・・。)

友人夫妻も見てきたであろう有名な『奏楽の天使』は15世紀の画家メロッツォ・ダ・フォルリの手になるフレスコ画、イエスの昇天を称えて楽器を奏でる天使たちの姿が描かれています。リュートを弾く天使もいます。そのいとも優美な横顔を、デスクの上の小さな天使を見る度に思い出すのです。

※「リュートを弾く天使」の画像はこちらをどうぞ。

https://www.museivaticani.va/content/museivaticani/en/collezioni/capolavori/pinacoteca.html#&gid=1&pid=3


『7人の聖勇士の物語』の続きです。

『7人の聖勇士の物語』
第4章 聖ジョージのさらなる冒険(1)

頬を染めた暁が美しい姿を東に現し、まばゆい光で山々の頂きを黄金色に輝かせるや、サブラ王女は戦士の天幕に戻ってきて、価値のつけようもないほどのダイヤモンドの指輪を差し出し、「この指輪には装飾品としてだけでなく、多くの優れた不思議な効能が備わっていますから、どうか指につけてくださいませ」と頼みました。

その日、ブリテンの戦士は、これまでアフリカで催されたなかでも一、二を争うほどの豪勢な饗応のもてなしを受けました。参列した全員が十分にその豪華さを認めました。特にド・フィスティカフはそうでした。彼は満足いくまでご馳走をたいらげ、懐かしいイングランドのために、と言っては、口の広い大きなコップで何杯も薔薇色のワインを一気に飲み干しました。

祝宴がお開きになる前に、肌の色の黒いモロッコの王アルミドールは、キリスト教徒の騎士を称えるふりをして席から立ち上がり、大杯に注いだサモス島産のワインを差し出しました。高貴な生まれの戦士は、裏切りがあろうとは考えもせず、杯を受取りました。しかし、杯を唇まで持ち上げたとき、王女にもらった魔法の指輪が杯の縁に触れますと、杯は木っ端みじんに砕けてしまいました。その場にいた者は皆が驚愕しました。サブラ王女は、「何か卑劣な裏切りがたくらまれています!」と叫びました。しかし、王はアルミドールをすっかり信用しておりましたので、裏切りの告発を信じようとしませんでした。

こうして聖ジョージは敵の陰謀から二度目も救われたのでした。しかし、アルミドールは憎しみを満足させる別な機会を山猫のようにじっと狙っておりました。

馬上槍試合や舞踏会、そのほかの雄々しい競技で聖ジョージは時を過ごしましたが、とうとう忠実なド・フィスティカフのおかげで彼は気がつきました。子々孫々まで伝わる名声を得たいと望むなら、悲しいかな、こんなことをしていては名声を逃しているのと同じだ、ということを。

「その通りだ、我が忠実な忠告者よ。」と彼は答えました。「王女様にお別れを告げて、出立しよう。」

騎士はサブラ王女がジャスミンの葉陰のあずまやに腰掛けているのを見つけました。彼は王女に用向きを伝えました。

すると王女は言いました。「我がお慕い申し上げるイングランドの貴公子様、あなた様愛しさゆえに両親も国もバガボーナボウ国の王位継承も打ち捨て、広い世界を巡礼としてあなたに付き従って参りたいと望む私を、どうかお拒みにならないでください。もし、サブラがイングランドの聖ジョージ様に不実であるとすれば、太陽はたちまち輝きを失い、青白い月はその軌道から落ち、海は満ち引きを忘れ、なにもかもが定めの道を違えてしまうでしょう。ですから、死だけがほどく力をもつあのゴルディオスの絆を、婚姻の絆を、婚礼を司るヒュメナイオス神の神官に結んでもらいましょう。」

戦士は、突然今年が閏年であることを思い出しました。そして、乙女が自分の好意をこんなに見事に言葉にしたことに喜びを覚えました。彼の心は、これまで一度も武芸への情熱以外では高鳴ったことがなかったのですが、愛の優しい思いにひれふすばかりでした。

(※昔、閏年には女性からプロポーズしてもよく、男性はそれを断れない、という慣習があったそうです。)

しかし、もっと彼女の気持ちを試してみたいという気持ちから、彼はこのように答えました。

「美しい王女様、あなたの命をお助けするために私が命を賭しただけでは満足なさらず、私が名誉を犠牲にし、まばゆい栄誉を追うことをやめ、戦勝の記念をことごとく婦人の膝の上に置き、槍の柄を糸巻き棒に持ち替えることをお望みなのですか。いいえ、サブラ様、イングランドのジョージは真の騎士道がはぐくまれた国に生を受けました。そして、天のランプが光を与えてくれる限り、結婚の黄金の鎖に縛られる前に世界中を見聞することを誓ったのです。なぜ、アルミドール王の求婚をお断りになるのですか。あなた様の高いご身分にふさわしいお相手でいらっしゃるのに。」

「それは」と、王女は唇に微笑みを浮かべて答えました。「残忍なモロッコ王は鰐よりも残酷なお方ですが、あなた様は子羊のようにお優しい。あの方の言葉は夜鷹の叫び声よりもまがまがしいですが、あなたの言葉は朝の雲雀よりも美しい。あの方に触れられると毒蛇に触れられるよりも忌まわしい。ですが、あなたは蔓をなす葡萄の木よりも喜ばしいのです。」

「でも、お待ちください、王女様。」と聖ジョージはさえぎりました。「私はキリスト教徒ですが、あなた様は異教徒でいらっしゃいます。」
王女は答えて言いました。「そのことについてはずっと考えておりました。私も、祖国の神々を捨て、あなたのようにキリスト教徒になりましょう。」こう言いながら王女は金の指輪を二つに断ち、愛の証しとして片方を騎士に渡し、もう片方は自分のもとにとどめました。

そこで、聖ジョージは、もはや抗わずに愛を受け入れ、もう少し武勲を達成したら戻ってきて彼女と結婚することを、騎士としての言葉に賭けて約束しました。

裏切り者のアルミドールはジャスミンのあずまやの陰で、自分について言われた不愉快な言葉をすっかり立ち聞きしておりました。そして、復讐の念に燃えて王の所へ急ぎ、「王女様がご先祖伝来の信仰を捨ててキリスト教徒の騎士と駆け落ちしようとしています」と王に告げました。

これに激怒した王は、邪悪なアルミドールの提案を聞き入れて一計をたくらみ、アルミドールに封書を持たせてエジプトの宮廷へと派遣することに同意しました。その封書は、昔からの信仰を軽蔑し根絶やしにしようとしている者をなるべく早い機会に殺してほしいという、エジプトのプトレマイオス王への請願書でした。

大きな敬意を顔に浮かべて王は聖ジョージをお召しになりました。王の右手にはアルミドールが、大きな目から言いようのない憎悪を発しながら立っておりました。王は聖ジョージに告げました。自分は彼を名誉ある大使として偉大なるエジプト王の宮廷へと遣わしたいと思う、エジプトでは彼の武芸にふさわしい冒険にきっと出会うだろう、と。

誠実な騎士は罠に陥ってしまいました。新しい冒険という考えに眩惑されてしまい、出発することに同意したのです。ド・フィスティカフを呼び出すと彼は武具の留め金をとめ、太陽が昇る方角を目指して出発しました。道中、彼は多くの冒険に遭遇し、たくさんの怪獣を退治しました。

名高いナイル川に到達したとき、暑さで疲れたド・フィスティカフは大きな木の切り株だと思ったものの上に腰をおろし、枝だと思ったものの1本に馬の手綱を結び付けました。一方、彼の主人は、黄褐色のライオンの群を一掃するため、平原を駆け回っておりました。そのライオンの群は、近隣の土地を荒らし回っていたのです。

従者は眠り込んでしまいました。どのくらい眠ったか自分でもわかりませんでしたが、愛馬が大きな音で鼻を鳴らし、いなないたので目を覚ましますと、自分自身がなんとも不安定な格好で運ばれていくことに気付きました。恐ろしいことに、目を開くと、ものすごい顎がついた巨大な頭が目の前の丸太のようなものから突き出しており、あらゆるものに噛みつきながらナイル川の広い流れの方へとすばやく移動していくのです。そして、彼の馬は恐怖で半狂乱となり、自由の身になろうとして、つながれている手綱を引張ったり、怪物の前進を止めようとむなしくあがいておりました。その怪物とは名高いナイル川に棲む巨大な鰐で、その土地の異教の神官たちから格別の尊崇を受けておりました!

従者は鰐の後ろ足で踏みつけられるのを恐れてあえて飛び降りませんでした。それに、でっぷりとした従者にありがちな理由から、馬の背に跳び乗って手綱を切ることもできませんでした。それゆえ、彼はじっと座ったまま、助けにきてくれるよう聖ジョージに手を振ったり叫んだりしました。とうとう、十数頭のライオンを倒した聖ジョージは忠実な従者の危機を見て取り、助けに駆けつけました。

竜を殺した武勲への賛嘆のしるしとしてバガボーナボウ国のご婦人達から贈られた新しい槍を構え、聖ジョージは鰐を攻撃しました。彼はまっすぐに鰐の口に槍を打ち込み、喉に深い傷を負わせました。怪物は顎を勢いよく閉じ、槍の先を噛み切ろうとしました。しかし、騎士はもっとすばやくて、もう一撃食らわそうと槍を構えて獣の右目を、そして三撃目で左目をくり出しました。その間中ずっと鰐は尾をくねらせていましたが、そのために馬はますます恐れ、ド・フィスティカフはますます不安になり、一瞬毎にナイル川にぐんぐん運ばれていくのでした。

「もう一撃で助かるぞ」と騎士は叫びました。そして、その言葉通り、彼の槍は怪物の心臓に突き刺さり、鰐はひっくり返りましたが、もう少しでその重みで忠実な従者を押し潰すところでした。

ド・フィスティカフは親切な主人に助けられて自由の身になり、馬に乗りました。ほどなくして、近くの異教の寺院から神官の行列が進み出てきました。緋色や黄色、青色、金色の絹やビロードの天蓋の下を歩む者がいるかと思えば、香炉を揺らしている者、白い牛、猿、蛇、鰐の偶像を高い壇に載せて運んでいる者もおり、色鮮やかな旗が空中に漂っておりました。神官たちはたった今殺された巨大な鰐を見ると、皆おおいに嘆き悲しみ、彼らの神を一体誰が打ち倒したのかと激しく呪いました。

「もう我慢ならないぞ!」と聖ジョージは叫びました。「行くぞ、ド・フィスティカフ!不信心者たちを倒すのだ!」
こう叫んで聖ジョージと従者は神官たちのさなかへと馬を乗り入れ、天蓋や偶像を引き倒し、旗を引き裂き、神官やお付きの者らを退散させました。

この所業を聞き及ぶとプトレマイオス王は、この不遜な外国人どもを鎖で縛って御前に引き立ててこさせるため、100人の精鋭兵を派遣しました。しかし、聖ジョージはバガボーナボウ国の騎士たちにしたのと同様に、この兵士らもやっつけましたので、彼らの敗北を生きて報告しに戻った者はいませんでした。


今日はここまでです。

ジャスミンの香り漂う夕暮れのあずまやで、愛しいジョージに思いを打明けるサブラ王女のなんと可憐なこと。ロマンチックですね。罠にかけられたとも知らず、サブラ王女を置いてエジプトへと向かった聖ジョージと従者のド・フィスティカフですが、前途多難なようです。

鰐はナイル川の主にして神聖なる神オシリスの化身として崇拝されていたそうです。その鰐を殺されたのですから、異教の神官たちが怒るのも当然ですよね。この物語の原作を書いたリチャード・ジョンソンが生きた時代、異教徒はキリスト教徒にとって「神の敵」だと思われていたので、キリスト教徒の騎士聖ジョージとしては、神官たちをやっつけるのが当然の義務だと思ったのでしょう。神官たちにとっては、鰐は殺され、自分たちは突然蹴散らされ、ひどい災難でしたが・・・。

次回をどうぞお楽しみに!

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