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『7人の聖勇士の物語』第13章(1)聖ジョージがアマゾネスの処女王を苦しめる魔術師を退治するお話

こんにちは。
いつもお読みくださりありがとうございます。

私は今、2つの職場で非常勤として働いているのですが、そのうちの1つは観光地の近くなので、最近外国のお客さんが増えたと実感しています。修学旅行の学生さんたちも増えたと思います。

最寄り駅から職場の近くまではバスに乗ります。朝は観光客はあまり乗っていませんが、夕方帰るときの車内では外国の言葉や日本のあちこちの方言が飛び交い、ぼんやりしていると一瞬自分がどこにいるのかわからなくなることもあります。
コロナ前よりはまだ少ないような気はしますが、紅葉の美しい季節ですし、観光に来られる方はこれからますます増えていくのでしょうね。

私もどこかに紅葉狩りに出かけたくなりますが、職場のあるその観光地は、やはり「仕事の場所」という気持ちが強いのか、あまり楽しめそうもありません。仕事を忘れて楽しむためには、仕事とは関係のない場所に行くのがよいのかもしれませんね。

『7人の聖勇士の物語』の続きです。

『7人の聖勇士の物語』
第13章 聖ジョージ、魔術師オズモンドを殺す(1)

聖ジョージと貞節な奥方はアフリカに到着し、西からエジプトへと旅していきました。すると、偶然にもアマゾネスだけが住んでいる広大な国にたどり着きました。

旅を続けていきますと、たいへん驚いたことに、どの町も村も住む人もなく、畑は耕されておらず、草が生え放題で、男も女も子供も見当たりませんでした。空腹を満たす食べ物といっては、森になる草の実すらほとんど手に入れることはできませんでした。

この窮状が何日も続いた後、彼らは豪華な天幕の前へとやってきました。全体が緑色と緋色で金と青の縁取りがあり、留め金は象牙、紐は絹でできており、頂きには黄金の鷲、屋根の四隅には緑がかった銀のグリフィンが陽光にきらめいておりました。その天幕の美しさもさることながら、天幕の前に立っていた貴婦人はもっと美しく、その方は処女王でいらっしゃいましたが、頭上には帝冠を戴き、お召し物は金のレースでできたボディスがついた緑色のローブ、すみれ色のビロードに覆われた緋色のカートル、そして、ゆったりとした袖には黄金でできた花や豪華な真珠の刺繍がついておりました。処女王の周りには美しい衣装を身に着けた侍女の乙女たちが控えておりました。彼女たちは銀の小さな冠を戴き、手には銀の弓を持ち、背には黄金の矢でいっぱいの矢筒を背負っておりました。

処女王は丁重な言葉で騎士と奥方を天幕へと招き入れました。そして、彼女の国がオズモンドという名の邪悪な魔術師によってひどく苦しめられていることを告げました。オズモンドは彼女に求愛していたのですが、拒絶されたために非常に激しい憎悪を彼女に抱くに至ったのでした。

処女王はこのように言いました。「オズモンドは我が国の国境に強大な塔を建て、そこから死を招く黒煙を放つので、人々は家から追い出され、農村はうち捨てられて荒れ果てる一方です。オズモンドは恐ろしい巨人に塔の番をさせていますが、この巨人は見たこともないような醜い怪物なのです。身の丈は30フィートもあり、頭は最も大きな雄牛の頭の3倍の大きさ、両目はひまわりの花よりも大きく、鉄の棒も砕く歯は口から1フィートも突き出しています。腕は長くて骨ばっており、皮膚は石炭のように黒くて真鍮のように硬く、武装した騎士を3人、馬ごと易々と運び去る剛力の持ち主です。」

「その怪物を縛り上げて魔法を打ち破ることをお誓いします。さもなければ、ここへは二度と戻りません。」と聖ジョージは言いました。サブラ王女はこの冒険を引受けないでください、と彼に懇願しましたが、無駄でした。アマゾネスの処女王さえ、この冒険は彼の手にあまると考えました。

早暁、泣き悲しむ奥方の傍らから、無事帰ってくるからと約束しつつ、ド・フィスティカフに付き従われて、彼は出発しました。彼と従者が魔法のかかった地域へと入っていくと、日の光が薄らぎ、どんどん暗くなりましたので、しまいには手探りで苦労して進むこととなりました。すると、濃い雲のような煙が頭上でどんどん厚くなり、ぐるぐると旋回するように見えました。空気の暗鬱とした重苦しい陰気さたるや、これよりひどいものはないでしょう。

すると、不気味な光のかすかなきらめきで、魔法のかかった塔の門が見えました。そこには、岩の塊の上に、巨大な巨人が鉄の外衣をまとい、手には鉄の棒を持って腰掛けておりました。巨人は聖ジョージと従者を見つけると猛烈に歯を打ち鳴らしましたので、まるで鉄床を叩くような音がしました。そして巨人はばねのように立ち上がると突進してきて、馬もろとも勇士を口にくわえ、従者を小脇に抱えて、塔の中へと連れて行こうとしました。

しかし、巨人が口を開き、鋼のように鋭い歯をのぞかせますと、聖ジョージは愛剣アスカロンを口の中深くまで突き刺しましたので、怪物は痛みと恐怖で雷のような大声で叫びました。大地は揺れ動き、巨人の口は燃えさかる炉のように煙を吐き出し、両目は炎燃え立つ松明のようにぐるぐる回りました。しかし、勇士は巨人をさらに激しく攻めたてましたので、巨人の口から大きな流れとなって血が流れ出し、ついに巨人は大声で慈悲を求め、命乞いをせざるを得なくなりました。聖ジョージは魔法の塔の秘密を洗いざらい明かすこと、以後は彼の忠実な僕になることを条件に命を助けてやりました。すると巨人は真実を話すことを誓い、次のように語りました。魔術師は奥まった丸天井の部屋で大きな火を焚いており、煙はすべてそこから来るのだが、火の近くには美しく心地よい泉があり、その水を誰か騎士が火に投じることができれば、煙はやみ、火も消えるだろう、と。聖ジョージにはそれで十分でした。

戸口を守るよう巨人に言いつけ、さらに、には巨人を見張るためド・フィスティカフをそこに残して、聖ジョージは塔の中へと進んでいきました。塔には大きな窓がたくさんありました。続いて彼は暗くて長い廊下に足を踏み入れました。廊下の行き止まりにはドアがついており、ウニの表皮を覆う刺のようにびっしりと鋼の釘が打ち付けられておりました。ドアを打ち砕いて開けると、雲のような煙がもうもうと吹き出しました。かまわず彼は全くの暗闇の中へと降りていきました。雷のような音をたてて打撃が休む間もなく兜に雨霰と降りかかりましたが、彼はそれを盾で防ぎました。目には見えない悪霊どもが発する声が彼の耳の中に金切り声を響かせていました。また、最初からひどかった熱さがあまりに激しくなりましたので、武具が真っ赤に焼けんばかりで、もう少しで身体が溶けてしまうところでした。

気が遠くなりそうになったその時、彼は水晶のような泉を見つけました。そして盾のくぼみにすばやく泉から水を満たして、その水を火に投げかけました。何度も泉と火を往復して、ついに煙がとまり、青空が現われたのを見て彼は歓喜しました。そして、太陽の光が暗い廊下に射し込むと、階段の上に多くの大きな真鍮の像があるのが見えました。像は鋼でできた巨大な棍棒を手に持っていました。聖ジョージが降りてきたとき彼を殴ったのはその棍棒だったのです。

火が消され、魔法もすっかり解け、国は元の繁栄を取り戻しました。聖ジョージはアマゾネスの処女王から熱烈な感謝を受けました。そして、サブラ王女を傍らに伴い、ド・フィスティカフとあの巨大な巨人―オーカスと呼ばれていました―に付き従われて、聖ジョージはキリスト教軍に合流するため、南の方へと出発しました。しかし、その途上、美しいサブラの生まれ故郷であるバガボーナボウがさほど遠くないことがわかりましたので、彼らはそちらへと足を向けることにしました。

ド・フィスティカフは、先駆けとして、彼らの到着を知らせるため先に行きました。そのため、彼らはまさに王族にふさわしく迎えられました。鐘、喇叭、シンバル、太鼓のこれほど楽しげな音がこの王国で聞かれることはこれまでほとんどありませんでしたし、彼らを歓迎する祝祭行事もこれほど壮麗なものは見られたことがありませんでした。建物の壁にはインド製の覆いや精密に織り上げた壁掛けがかけられ、石畳の道路には良い香りのするさまざまな美しい色の花々が撒かれました。

これらが終りますと、サブラ王女はこの国の女王として戴冠され、彼女と彼女の高貴な夫君は何日もの間平和と繁栄のなか、この地を治めました。しかし、武勲への欲求が聖ジョージを再び奮い立たせましたので、彼は武具を身に着け、今やエジプトに向けて行軍しているキリスト教軍に合流しました。

今回はここまでです。
お読みくださり、ありがとうございました。

次回をどうぞお楽しみに!


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