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[西洋の古い物語]「クリュティエまたはヘリオトロープ」

こんにちは。
いつもお読み下さり、ありがとうございます。
今回は、太陽神アポロンに報われぬ愛を注ぎ続けたニンフのお話です。
ご一緒にお読みくださいましたら幸いです。
※ 画像はヘリオトロープの花です。Wikipediaよりお借りしました。

「クリュティエまたはヘリオトロープ」
 
昔あるところにクリュティエという名前のニンフがおりました。クリュティエは太陽神アポロンが太陽の戦車を駆って天空をわたって行くのをいつも見つめておりました。

薔薇色の指をした曙の女神と、舞い踊る時の女神たちにかしずかれて、彼が東から起き出すのを、彼女はじっと見つめておりました。また、彼が真昼の灼熱のなか、馬たちを駆り立ててさらなる高みへと天空を昇っていくのに瞳をこらし、夕暮れに彼が西の空の下、色とりどりの牧場へと馬たちを連れ帰るのを驚嘆の眼差しで見ておりました。馬たちはその牧場で一晩中、アンブロシアー(不老不死になるという神々の食べ物)を食べるのでした。
 
アポロンはクリュティエを見てはいませんでした。彼女のことなど頭にはなく、彼女の妹のニンフ、色白きレウコトエーを彼の最も明るい光線で照らしておりました。このことを知ったクリュティエは、嫉妬と悲しみでいっぱいになりました。
 
夜も昼も彼女はむき出しの地面に座って泣きました。九日九夜の間、彼女は地面から起き上がらず、食べ物も飲み物もとりませんでした。そして、太陽神が大空を進んでいく方向へと、涙に濡れた目をただひたすらめぐらせておりました。
 
彼女の手足は地面に根を生やしました。緑の葉が彼女の身体を包みました。そして、美しい顔は、すみれ色の、良い香りのする小さな花々で覆われました。
 
このようにして彼女は姿を花に変えられ、根でしっかりと地面の上に固定されました。しかし、彼女は、花に覆われた顔を太陽の方向へと常にめぐらせ、日々天翔る太陽を熱烈な眼差しで追いかけるのでした。

アポロンは彼女を気に留めることもなく、彼女の悲しみと涙は甲斐無く空しいものでした。

こんなふうにしてこのニンフは昔からずっと露に濡れた顔を天空へと向け続け、人々はもはや彼女をクリュティエではなく、太陽の花、ヘリオトロープと呼ぶようになりました。
 
 
「クリュティエまたはヘリオトロープ」のお話はこれでお終いです。

オウィディウスの『変身物語』に収録されている物語の一つです。クリュティエは、ヘリオトロープの他、ひまわりに姿が変わったとも言われています。

かわいそうなクリュティエ。
恋い焦がれたアポロンには一顧だにされず、悲しみのあまり花に姿が変わってしまったのです。花になった後もずっとアポロンを見つめ続けているなんて、その悲しみを思うと思わず目頭が熱くなってしまいます。
多くの画家がこの物語を題材に選んでいるのも頷けますね。

ヘリオトロープは紫または白色の小さな花が、ドーム状に密集して咲きます。お花はバニラのような甘い芳香を放ち、花から抽出した精油が香水の原料になります。ハーブとしてもよく知られています。

このお話の原文は以下の物語集に収録されています。

今回もお読み下さり、ありがとうございました。
次回をどうぞお楽しみに。

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