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[西洋の古い物語]「巨人の娘」

こんにちは。
いつもお読みくださり、ありがとうございます。
今回は、心優しい巨人の娘のお話です。
ご一緒にお読みくださいましたら幸いです。

※ 画像は、物語とは関係ないのですが、兵庫県出身の画家 岡本帰一(1880-1930)の作品「ボクノオ室」(1929)です。パブリック・ドメインからお借りしました。可愛らしい少年がお人形やぬいぐるみたちに何かお話ししているのでしょうか。少しお兄さんぶった表情がなんとも微笑ましいですね。

「巨人の娘」

 昔々、強力な巨人の一族がおりました。背丈は丘のように高く、山のようにそびえる巨大なお城に住んでおりました。彼らにとってこの世界はほんの小さな場所にすぎませんでした。しかし、巨人たちはこの世界とそこにあるたくさんの美しいものを愛していました。太陽の光や鳥の歌、緑なす草原、森、川、それに青い空――すべてが彼らにとっては魅力的なのでした。

 そういうわけでしたので、巨人たちはあちらこちらと歩き回るのを常としていました。いろんな場所に行き、様々なものを眺めて楽しむのでした。でも、彼らが散歩するときには、丘の頂上から頂上へと歩を進め、谷間へと降りたことはありませんでした。

 巨人たちの王は偉大で善良でした。民には親切でしたし、子供たちには優しかったので、皆彼を愛し、尊敬しました。彼の子供たちのなかに一人の美しい娘がおりました。もう少ししたら成人するお年頃でしたが、まだまだ遊び道具が大好きなお嬢さんなのでした。

 他の巨人たちと同じく、王の娘のヒルダは外の世界を散歩するのが好きでした。しばしば彼女は実に面白い遊び道具を見つけました。時には熊や象の赤ちゃんを家に連れて帰ることもありました。

 ある日のこと、ヒルダは散歩に出かけました。それまで数日間雨が降り続いたので、お城でじっとしていなければならなかったのですが、その日はよく晴れた美しい日でしたので、巨人の娘にとってさえも遠い道のりを歩いたのでした。

 娘は谷間から谷間へ、丘から丘へと歩みを進め、お城からかなり遠くまでやって来ました。これまでこんなに遠くまで来たことはありませんでした。その土地の風景はこれまで見た風景と随分違うように思えましたが、それがまた楽しかったのでした。

 彼女は立ち止まり、回りを見渡して景色を楽しみました。目の前には広い谷間があり、そこには好奇心をそそるものがたくさん見えました。その一つが人間の男の人で、馬に鋤を引かせているところでしたが、彼女はこれまでこういうものを見たことがありませんでした。

 「あら!」と彼女は叫びました。「とっても可愛い遊び道具になりそうだわ!本物の、生きた玩具ですもの!あの後ろを歩いている小さい生き物はなんて素敵なのかしら!それに、あの男の人が持っているあれも!素晴らしいおもちゃになるわ。動物たちも可愛いペットになるわね。全部持って帰らなくっちゃ。」

 ヒルダは谷間へと降りていき、男の人、鋤、馬たちをつまみ上げ、エプロンの中にしまい込みました。そして家に戻ると、お父様に言いました。
「ご覧になって!とっても可愛い遊び道具を見つけましたの!」彼女は巨大なお城に駆け込みながら、お父様に呼び掛けました。

 「嬢や」と優しい王様はおっしゃいました。「それはおもちゃではないのだよ。見つけた所に連れて帰って、そこに置いておいで。二度と触ってはいけないよ。これは人間の男で、家には妻と子供らがおるのだ。彼が家に戻ってこなかったら、皆悲しむであろう。」

「それに」とお父様は続けておっしゃいました。「この世界は全てこの男のような小さな生き物のものなのだ。我々はもう存在しなくなるのだから。」

 王の娘はこれを聞いて悲しく思いました。こんなに素敵な遊び道具を諦めたくなかったのです。でも、彼女は優しい心の持ち主でしたし、お父様を愛しておりました。それに、お父様は自分よりも物事をずっとよくご存じであることも知っていました。そこで彼女は再び男の人と鋤と馬たちをエプロンの中に入れ、彼らを見つけた所へと連れて帰りました。畑の中に下ろしてやると男の人はとても嬉しそうでした。そこにいた彼の優しい妻も子供たちも彼との再会をとても喜びました。何かあったのではないかととても心配していましたので。

 娘は不思議な思いでその様子をしばらく見ておりました。男の人と妻と子供たちがとても幸福そうなのを見ると彼女も嬉しくなりました。もう彼女は遊び道具を諦めたことを残念に思いませんでした。そして、心も軽く家に戻りました。

「巨人の娘」のお話はこれでお終いです。

 古い西洋の物語の中では、巨人といいますと、竜や魔術師と並んでよく登場する敵キャラですね。血に飢え、情欲に燃え立つ恐ろしい大男で、巨大な棍棒や根こぎにした大木を振り回しながら襲ってくる凶暴な姿がおなじみです。でも、今回のお話の巨人は全く違って、品性高く、心優しい巨人たちでしたね。心がほっこりとする、良い物語だと思いました。

このお話が収録されている物語集は以下の通りです。

今回も最後までお読みくださり、ありがとうございました。
次のお話をどうぞお楽しみに。

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