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死んだ人の夢を見た

ミャウダーの夢を見た。
死人だから敬称略でも許してもらえるだろう。

ミャウダーは伝説の人物だ。

実際に会ったことがない時代でも噂は耳に入ってきた。大酒飲みで、いつも酔っぱらいで、他人にからんではモメ事を起こし、自分で警察を呼び自分が連れていかれるという嘘みたいな本当の話だ。

ミャウダーは焼肉店を経営していた。僕が奈良から大阪に住む彼女(今の奥さん⁉︎)の部屋に転がり込み、ただ毎日ゴロゴロしていた頃、mixiでメッセージが来た。
「うちでバイトしませんか?」
会ったことのない、ただのマイミクをバイトに勧誘してきたのだ。それから3年くらい僕は本当にバイトをしたのだけれど。

病院で今すぐ入院しろと言われたこともあった。酒でいろんな数値が無茶苦茶になっていたのだ。ミャウダーは店を閉めることは出来ないからと自ら酒をやめ、激痩せもして入院を回避した。自分のことをロバートデニーロだからと笑っていた。役に合わせて体型までも自由自在に変えられると。でもすぐに病人役を演じることをやめた。束の間の禁酒だった。いつからか炭酸水のペットボトルを少し飲んで量を減らし、減らした分、焼酎を足して見た目は炭酸水の焼酎ハイボールを常に飲むようになった。肉が入った業務用冷蔵庫に何本も炭酸水のフリをした焼酎ハイボールが並んでいた。誰を騙して酒を飲み続けていたのだろうか。今にして思うと自分自身を騙していたのかもしれない。

僕がバイトをやめた後は、当時、日本で1番聴かれていたポッドキャスト番組「BSもてもてラジ袋」にパーソナリティとして出演し、放送中にもかかわらず眠り込み、何度もミャウダーのイビキが世界中に配信されていた。

ある土曜日の昼、家の風呂の脱衣所でミャウダーはイビキをかいて倒れて寝ていた。家族も、また酔っ払ってこんなところで寝ているとそのままにしていたが、いっこうに起きて来ない。
さすがに気になった奥さんと子供達が起こしに行ったが、叩いても揺らしても起きなかった。救急車が来た時には、もう手遅れだった。何日かICUに入った後、11時29分。焼肉店の経営者らしくイイニクの時間に息を引き取り、最後の伝説を作った。

そんなミャウダーが夢に出てきた。彼が愛した九条という街の立ち飲み屋で、お酒を飲んでいた。こんなところにミャウダーがいると思ったら姿が消えた。立ち飲みしている姿も普通のことだと感じたが、姿が消えたことも普通のことに感じた。だって死んでるんだから。夢の中でもそれはわかった。
別の立ち飲み屋で、またミャウダーを見つけた。今度は駆け寄った。隣に立つとミャウダーはカウンターの上の小銭を無言で店員側にそっと押し出した。小銭と引き換えにビールの小瓶とグラスが僕の前に出てきた。何も話さないまま奢るだけ奢って、またスッと消えた。
死んでしまっているから話も出来ないのかと思い、ひとりで小瓶からグラスにビールを注いだ。久しぶりに飲むビールの苦味で目が覚めた。

ただそれだけの夢だ。

他人が見た夢の話を聞かされることほど退屈なことはない。起きている時の夢の話もまたしかりだ。

ICUで管を通され、息だけしているミャウダーに僕は子供の写真を見せた。今やっていること、これからやろうとしていることを伝えた。ミャウダーは何も言わなかったが、きっと退屈な時間だったことだろう。

この夢を忘れない間にどこかに記しておきたかった。
ミャウダーなら、全く興味が無い声優の白井悠介写真集も僕の書いた文章が掲載されているという理由だけで買って店に置いてくれていただろう。
今、4月10日締め切りの案件が来ている。モノを書くことから逃げていたが、書いてみようかと思う。採用されるかどうかはわからないけど、ライターになるよと最後に直接ミャウダーに話した夢だから。

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