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コリーナと爪先(短編童話)

今日はちょっぴり切ないロバの少女コリーナの物語です


コリーナと爪先 (月と爪先 改題、改訂)

ロバの少女コリーナは
子どもの頃から
毎日毎日農場で
人間が収穫した野菜
背中に載せて運びます
今日も朝から市場まで
沢山たくさん運びます
今日も村との境の川にかかる石橋を渡り
街にやって来ました
その日はちょうどお祭りで
市場はとても賑わっていました
他所から来た旅芸人一座の踊り子が音楽に合わせて楽しげに踊っています
なんて美しいんだろう!
細い爪先がとてもキレイだわ!
コリーナは重い荷物も
すっかり忘れてしまうほど
踊り子に魅了されました

人が寝静まった真夜中に
コリーナは野原で月の光に照らされながら
踊り子の真似をして踊ります
ところが後ろ足で立とうとしても
バランスを崩して前足をついてしまうのです
私はこんな蹄があるからあの子みたいに踊れないのね
コリーナは悲しくなりました
もし私がニンゲンで
あんなキレイな爪先があれば
もっともっと練習して
あの踊り子みたいに踊れるのに…
それでもコリーナは
めげずに夜な夜な踊ります

それを見ていた月の女神が
ある晩コリーナに話しかけました
「あなたは本当に躍りが好きなのね。おかげで毎晩楽しいわ」
「ありがとうございます、女神さま。でも、私の爪先は蹄だから、上手に踊れないんです。もっとキレイに踊りたいのに」
コリーナは思いを話します
「私の爪先はどうして蹄なんでしょう」
すると月の女神さまがこう言いました
「では、今日から100日、毎晩踊って私を楽しませなさい。そうすればニンゲンの爪先をあなたにさしあげましょう」
コリーナは大喜びです
「美しい爪先になって、もっともっとキレイな躍りを月の女神さまにご覧頂けるよう、頑張って踊ります」

張りきるコリーナ
毎晩毎夜踊ります
寝る間も惜しんで踊ります
月の女神さまは素晴らしいご褒美を私にくださる
100日踊れば私の蹄は美しい爪先になるのね
そうすればもっともっとキレイに踊れるわ!
ただひたすら
美しい爪先で踊れる日を夢見るコリーナです

あっという間に日は過ぎ
とうとう今日で99日目
今夜踊れば心願成就
私の蹄は美しい爪先になる…
今日も野菜を背に満載し
コリーナは街へと歩きだしました
疲れた体を叱咤してやっと村との境の川まで来ました
石橋を渡り始めた時のことです
コリーナはめまいを起こして倒れ
そのまま川に落ちました
コリーナの手綱を引いていたニンゲンも慌てて助けようとしますが間に合いません
重い荷を満載しているコリーナは川の底へと沈んでいきます
つらい荷運びと睡眠不足で疲れが溜まったコリーナの体は限界に達していました
もう水から脱け出す体力も残っていません
今日で願いが叶うのに…
今度生まれてくるときは
ニンゲンの踊り子になれたらいいな…
夢と悲しみを胸に
コリーナは永遠に
水底に沈んでしまいました

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