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タチアナ・サモイロワの出演作
先週末に鑑賞した『鶴は翔んでゆく』は、衝撃の作品だったようで、映画の造りとしても物語の展開、撮影技術、山場の作り方、そしてエンディングとなかなか印象が冷めやらない。
映画全体の話で言えば、監督の手腕によるものなのだけれども、カンヌ映画祭でパルム・ドールを受賞について次のようなコメントが残されているように、全体を貫く印象の柱は主演女優のタチアナ・サモイロワの演技によるところが大きいです。
タチアナ・サモイロワの演技に敬意を表して
タチアナ・サモイロワの経歴
『鶴は翔んでゆく』のパルム・ドール受賞と映画のヒットによって一躍ソ連の女優としてスターダムにのり、既に上記のリンク先の記事でも書いたように10年後の1967年には『アンナ・カレーニナ』のヒロインも演じました。
ソ連を代表する女優に躍り出たタチアナ・サモイロワのウィキペディアには、しかしたった3作の映画しか記載がありません。
しかも3作のうち2作は、『鶴は翔んでゆく』と『アンナ・カレーニナ』なのだから、これが本当ならそれ以外には1作だけということになります。
「ソ連当時のプロパガンダの手法と、映画をその手段として使うこと」と言った戦略的な話は、そちら方面の素人として知っている内容は何もないのですけれども、それでも「もう少し何か出演するでしょう」と思うところ。
それでタチアナ・サモイロワのロシア語ページを見てみますと、出演作(Фильмография)には18までのナンバリングと作品名が書いてあります。
他にもテレビ番組(Телеспектакли)に1編、ドキュメンタリー(Документальные фильмы)が2編、掲載されていました。
ちょっと脱線しますが、「家族」の欄の記載に、「муж(夫)」が3番目まで書いてあり、その途中で「Незарегистрированный брак(内縁関係)」とも記載されています。恋多き女優だったのか、その辺までは読み取る力がないのが、現時点のロシア語理解力の限界。
タチアナ・サモイロワ出演作のDVD/Blu-ray
タチアナ・サモイロワが出演した映画を、日米英のAmazonでロシア語タイトル、英語タイトルなどで調べてみた結果、下記の4作品しかないようです。ロシアのDVD販売サイトもあったのですが、さすがに利用には踏み切れなかったので、日米英のAmazonで調べてみました。
日本語字幕付きで入手できる作品
1957 Летят журавли (鶴は翔んでゆく)
1967 Анна Каренина (アンナ・カレーニナ)
これらの作品については既にまとめています。
海外でのみ発売された作品
1964 『Они шли на Восток(Attack and Retreat)』
こちらはなんとピーター・フォーク(のちの刑事コロンボを演じた俳優)が主人公の戦争映画のようです。
上のAmazonのリンクの説明欄には主演の欄にタチアナ・サモイロワの名前なないのですが、イタリア語の輸入盤では大きく表示されています。
映画の内容がソ連と戦ったイタリア兵の物語のようで、それならロシア人も敵側の人物としてでしょうけれども、物語にからんできていることでしょう。
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ところで、こちらの記事に映画の紹介があるのですが、ピーター・フォークに関して面白いことが書いてあります。
刑事コロンボ役で世界的に知られる米国の俳優は、ソ連とイタリアの合作ドラマ「Attack and Retreat」に出演した。戦争ドラマで、ナチス・ドイツとともにソ連軍と戦うイタリア軍を描いたもの。ピーター・フォークは実在の兵士の回想に基づくある人物を演じている。ちなみに、ピーター・フォークはロシア人のルーツを持っている。父方の親戚が1890年代にロシアから亡命したのである。
それは知りませんでした。西側では積極的に言い出す内容ではなかったでしょうが、さすがロシア・ビヨンドという感じでしょうか。
2005 『Далеко от Сансет-бульвара(Far from Sunset Boulevard)』
この映画はフランス映画で、「1930年代のソ連に同性愛者の監督がアメリカから戻ってきて、同性愛を偽装するために自分の映画の主演女優と結婚するが、突然映画でも成功して」といったあらすじが書いてありましたが、あまり情報が多くありません。
あらすじを読む限りは、非常に興味深い映画だと思いますし、言語はロシア語とかいてある謎の映画。もっとも、このリンク先の商品ではPALでの録画なので、うちには再生デッキがないので鑑賞できないのが残念。
YouTubeで鑑賞可能な作品
以前からロシア映画では全編がYouTubeで公開されているものも結構ありました。タチアナ・サモイロワの作品も例外ではありません。
DVD/Blu-rayが販売されているものは除きました。それはきちんと購入して拝見したいと思います。それ以外、どうしてもDVDなどが見つからないもののリストが下記の通りです。
Мексиканец(1955年)
メキシコ人というタイトルの映画。1955年の映画。
ソ連が初の人工衛星スプートニクを打ち上げたのが1957年だそうですから、そりゃもう国威発揚、プロパガンダ全盛の時期だと思ったら、案の定映画の説明がこんな感じでした。
During the early years of the Mexican Revolution, a group of Mexicans rebels living in Los Angeles begin collecting money to fund the Revolutionary Army who is fighting to overthrow the Porfirio Díaz's regime.
メキシコ革命の時代を描いているそうで、革命軍に足りない資金を稼ぐために有名なボクサーと試合をすることにした、というあらすじのようです。
Леон Гаррос ищет друга(1960年)
この映画の英語版の説明が面白いのが、まずタイトル。
『海底2万里(Twenty Thousand Leagues Under the Seas)』ではなく、『地上を2万里』となっていて、実際ロシアを車で縦断する内容となっているようです。
そしてもう一つ。タチアナ・サモイロワの役ナターシャというのが、「ニコライの兄の逃げた嫁」。
During the Second World War and Leon Garros and Boris Vaganov escape from a Nazi concentration camp. After 15 years as a journalist Leon with buddies visits the Soviet Union to make a report and accidentally finds Boris. But Boris is not in Moscow, and for the sake of meeting a friend Leon has to take a car halfway across the country... Traveling with the foreigners is translator Nikolai, who in turn is looking for Natasha, his brother's runaway bride.
なんか、似たようなプロットの話を先日見たような気が...(笑
Альба Регия(1961年)
この映画は、ハンガリーで制作されたもののようです。
政治とは距離を置いていたハンガリー人医師が、「ドイツ国防軍が占領しているハンガリーで活動しているソビエト諜報員の無線通信士アルバに恋」をして、ドイツとの戦争に巻き込まれた時、どうするか選択を迫られる映画、という説明が書かれています。言うまでもなく「無線通信士アルバ」がタチアナ・サモイロワなわけですが。
ウィキペディアでは言語がハンガリー語となっていますが、ところどころ聴いた限りではロシア語での会話もしているようです。
当時のハンガリーの置かれている状況を反映しているのでしょうか。ハンガリー動乱が起きたのが1956年なので、それに対する何らかのメッセージが入っているかもしれません。ここはあくまでも推測ですが。
Океан(1974年)
この映画は、キューバとソ連の合作映画。
タチアナ・サモイロワのページでは出演作となっているものの、映画の紹介ページにはクレジットされていないようです。
脇役としてのみの登場だったのでしょうか。
Бриллианты для диктатуры пролетариата(1975年)
この映画はぜひ見てみたいと思ったものの一つ。タイトルからすごいですからね。『プロレタリア独裁のためのダイヤモンド』
ウィキペディアのあらすじをグーグル翻訳にかけるとこんな感じです。若干手直しを入れました。
1921年。 秘密警察のグレブ・ボーキーは、タリンから暗号化されたメッセージを受け取りました。ロシアには、ゴクランからの宝石の盗難に従事し、バルト三国を経由してロンドンとパリに宝石を違法に輸送している組織があります。 事件の調査はチェーカー(秘密警察)の若いエージェント、フセボロド・ウラジミロフに委託されています。
1975年に作られ、1921年を舞台にしてソ連の宝石を西側に密輸している組織を秘密警察が取り締まる映画なんだそうです。いやいや、これはすごい。
これはまたどんな風に仕上がっているんだろう?と思いますね。
タチアナ・サモイロワの役割は「шифровальщица=crypter」ということですので暗号化要員という感じでしょうか。
なお、この映画の後、しばらく空白期間があります。次の映画として挙げられているのが2000年なので、25年もの間、出演がなかったことになります。
24 часа(2000年)
24時間などというと、似たようなタイトルのアメリカドラマがあったような気がしますが、あちらの公開年度が2001年ということですので、こちらのロシア版が先ということになります。
ロシア版も銃を持った人がドンパチやるので、どちらもあまり変わらないかもしれません。ただ、少なくともロシア版は24時間も続いたり、その続編がいくつもあったりしないという点が違いますでしょうか。
ちょっと残念なのは、このYouTubeの動画は、最初の部分が切れてしまっていることです。
Московская сага (2004年 第14話・第16話)
こちらは映画ではなく、テレビドラマシリーズとの説明ですね。
2004年、つまりソ連崩壊から10年以上のちに制作されていますが、次のような説明を見ると、「ロシア人」の立場で「ソ連革命」を見つめるという内容でしょうか。英語のウィキペディアをグーグル翻訳にかけて、少し手直ししました。
モスクワ・サーガは、新生ソビエト樹立の歴史を背景に、1920年代半ばから1950年代半ばまでの医学教授ボリス・ニキティッチ・グラドフの家族の運命を描いています。 ボリスの性格は、ロシアの医師の古い王朝を表しています。 彼の息子と娘は彼の足跡をたどりませんでしたが、代わりに他の職業を選びました。 長男ニキータが軍に加わり、 若いキリルはマルクス主義の理論家になりました。 そしてボリスの娘ニーナは作家になりました。
タチアナ・サモイロワの役割はプロフェッサーと書いてます。
全22話。現在のロシア人がどのようにソ連誕生をとらえているのか、興味があります。
これは、字幕が欲しいかな。
なんとかDVDとかになっていないだろうか?この作品についてなら、少しぐらい高くても買いたいと思います。
Нирвана(2008年)
タチアナ・サモイロワの最後の出演作。
『モスクワ・サーガ』とは異なり、完全に現代のロシアを描いた作品のようです。この時は御年76歳ですので、おばあちゃんとしての役割だと思います。
現代ロシアを理解するには良いかも。
トレインスポッティング的な雰囲気も感じますが、果たして...
ウィキペディアはあるのですが...
18の作品(うち一つは連続テレビドラマでしたが)のうち、13までは上記の通りDVD/Blu‐rayやYouTubeが見つかりました。一方で、ウィキペディアのロシア語ページはあるけれども、DVDやYouTubeで見つからないものが3作品ありました。これらの作品の紹介は割愛させていただきます。
Нечаянные радости(1972年)
Длинная дорога в короткий день(1972年)
Возврата нет(1973年)
文字情報すらない作品も
以下の2作品については、ロシア語のウィキペディアのページも書かれていませんでした。
1972 Город на Кавказе (короткометражный)
2004 Сен-Жермен
映画や俳優・女優を通して映し出される時代感
今回、たまたま見かけたツイッターから『鶴は翔んでゆく』を見て知ったタチアナ・サモイロワの作品を並べて感じたことですが、私たちには1921年のロシアからダイアモンドを盗み出す泥棒や、第2次世界大戦当時のドイツやロシアの状況、ハンガリーの医師、新生ソ連の時代を生き抜いた医師の家族などを知ることはできません。
しかし、素晴らしい作品や俳優・女優の演技を通じて、当時の時代感や空気について関心を持ったり、知ることができるのは素晴らしい。
もちろん、ここに並べた作品のうち、特に1950年から1970年代ごろまではプロパガンダ全盛で、政治的な影響を抜きにした映画製作などはできなかったかもしれませんが、今の時代にそのプロパガンダに影響を受ける必要もなく、「当時という時代」として鑑賞できるのもありがたいです。
今日も最後までお読みいただき、ありがとうございました。
コメントなどいただけますと嬉しく存じます。どうぞよろしくお願いいたします。
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