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Bud Powell at Musical Planet

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バド・パウエル(Bud Powell)

 画:音座マリカ
 文:泉井小太郎


Blues For Bouffemont

ぼろぼろの
空を広げて
それは
笑っているのか
泣いているのか
もう一度
恋する誰かのように
そうだよな
ピアノに向かえば
零落も
落魄もない

淡々としてはいても
胸の裡に
寒暑はある
人生は
音楽ではない
そんなことも
難しいことだったが
ピアノに触れれば
自己も
他己もない


   ♪


7月31日には必ずかけるレコードがある。バド・パウエルの『The Invisible Cage』。現在は『Blues For Bouffemont』というタイトルになっているようだ。どちらもやや重い題名だけれど、演奏は淡々とした中にも華があり、音の粒立ちもいい。
ブッファマンというのは、彼が入所していたサナトリウムに因むらしく、珍しく訥々と弾くブルージーな演奏が、パウエルの長い闘病を窺わせて切ない。
ジャズのよきパトロンであったニカ男爵夫人の編んだ『Three Wishes』という本の中で、パウエルが第一番にあげた願いは「Not to have go to the doctors and the hospitals.」というもの。あとの二つは、「日本に行きたい」、「レコードを作りたい」。みんな叶えてほしかったけれど……。
「Blues For Bouffemont」で始まったアルバムは「Relaxin' At Camarillo」で終わる。これはチャーリー・パーカーが、入院していた病院での生活を振り返って作った曲。これを演奏するパウエルにも、いろいろあった、やれやれ、という安堵感が漂っている。


7月31日はパウエルの命日でもあるし、このアルバムの録音日でもある。バド・パウエルの残したメモに、新曲をあなたに捧げて録音する、とタイトルとサインと1964.7.31の日付を走り書きしたものがあった。その曲「In The Mood For A Classic」はとてもくつろいだ演奏で、どこか溌剌としてもいる。ともすれば枯れた落ち着きの如く聴かれる後期パウエルだけれど、まだまだ意欲もあるのだと再認識させられる。何かのインタビューで、この曲を紹介して、みずから口ずさむシーンがあった。そのハミングを聴いているだけで、バド・パウエルという人がどう音楽と向き合っているのか、自作をどう慈しんでいるのかが、よく分かってくる。
なんだかアルバム評のようになってしまったから、ついでに書くと、パリでパウエルの面倒をみたフランシス・ポードラに捧げた「Una Noche Con Francis」という曲も披露しており、ヨーロッパでの数年間の哀歓がもっともよく反映されたアルバムであるかもしれない。バラードの「Like Someone In Love」はすこぶる楽しいし、「My Old Flame」では実にしみじみする。


   ♪


バド・パウエル(Bud Powell )1924 - 1966
ベース、ドラムスというピアノ・トリオの基礎を作った天才奏者。
目眩くスピードで展開するイマジネーション。バラードは美の極致。
若い頃から精神疾患に悩まされる。晩年の枯淡の演奏も深みがある。

愛聴盤:
○ Jazz Giant(Verve)
○ The Amazing Bud Powell vol.1(Blue Note)
○ The Genius Of Bud Powell(Verve)
○ Bud Powell's Moods(Verve)
○ Strictly Powell(RCA)
○ The Scene Changes(Blue Note)
○ At The Golden Circle Vol.3(SteepleChase)
○ Bud Powell At Home Strictly Confidential(Fontana)
○ Bud Powell In Paris(Reprise)
○ The Invisible Cage(Black Lion)

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