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木漏れ日


土間から庭へ出たところに木漏れ日が落ちる。晴れていれば、毎朝9時頃から12時頃まで。9時台は壁や戸に映り、刻々と位置と姿を変えて昼前にはばらけてしまう。見頃は地面に落ちて移ろう一時間くらい。

いつ頃からこんな光の模様に眼を止めるようになったのか、最初に如何ような象形に驚いたのか、もうはっきりとは覚えていない。
ただ、木漏れ日が踊る時間帯に居合わせるためには、規則正しい生活リズムが要る。それが不得手で、いつ眠り、いつ起きるのか分からない、放っておけば自然に一時間ずつずれた月のリズムで生きる小生には、とんと縁のない太陽の戯れであったかもしれない。

月のリズムが太陽のリズムに代わったのは、薬のためである。薬を飲んで変化したのではなく、薬を毎朝定時に飲むために規則正しくなったのである。われながら信じ難いが、それによってこの木漏れ日のギャラリーを見つけることが出来た。光の遊戯は、その褒美であったのかもしれない。

ここに「六」だとか「?」だとかの文字が浮かび、四つ葉が現れたり、兎が現れたりする。夜空の星座を象ることもある。むろん、ただちらちらと揺れているだけでもいい。陽射しによって濃淡もうつろう。



木漏れ日ギャラリーの奥に、ヤツデとナンテンの下闇があり、ハランの茂りがある。そこにふうらが三人いる。二人は杖を持っていて、残る一人は両手をつき出して「おちょうだい」ポーズである。普段は木の実草の実を載っけてあげるのだが、この日は何にもない。雨や雪を受けてもうれしいふうらが、木漏れ日の写真を撮っていると、奥でそれを欲しそうにした。

木洩れ日の中に置くと、ふうらは両手でそれを受けた。

ふうらが得心して元の下闇に帰ると、彼の受けた光は地面に戻り、光の四つ葉の一枚になっていた。



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