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重量級ボードゲームの戦略デザイン

どうもロハンザムです。

1~2時間を超えるような重量級ボードゲームでは、各自が戦略を考え、それを形にしていくのが醍醐味ですよね。

とはいいつつも、当初のプラン通りにはうまくいかず、敗北してしまい、「次こそは!」というリベンジに燃えるものです。

かくいう私も「アグリコラ」をはじめ、「テラフォーミングマーズ」や「グレートウエスタントレイル」などの重量級を何度もリプレイしました。

その中で得た考察をご紹介できればと思います。
まだまだ未熟な部分もありますので、至らぬところは生温かく見守っていただければ幸いです。

1.絶対的必勝戦略はない

「○○強すぎ!」
「○○していれば、勝てる!」
ごく一部のゲームでは、ゲームが破綻するレベルで強い戦略や効果などがあることは認めますが、著名なボードゲームにおいては、基本バランスが取れているものだと思っています。

例えば、「アグリコラ」や「テラフォーミングマーズ」では、強カードと位置付けられる存在がありますが、それだけで勝利を確約するものではありません。

【アグリコラ 】とりあえず強いカードの例
(鋤手助手、伐採人、家具職人小屋、踏み粘土)

ただ効果の強弱を知っていること、つまり、知識や経験の差は初心者とのギャップにつながります。
とすれば、経験者が初心者に勝って当たり前の世界が生み出されてしまいます。
アブストラクト系(運要素がなく全情報が公開)のゲームでは特に起こりうる永遠の課題ですね。

当然、運要素を高めれば、ギャップを埋めることは可能でしょうが、戦略を楽しむプレイヤーにとっては、運に振り回されてばかりでは楽しくない要素になりかねません。

とはいえ、特殊効果が多いボードゲームは煩雑になりやすく、理解が難しい、敷居が高くなりがちです。

一方、特殊効果が少ないボードゲームは、分かりやすいが、淡白で同じ展開になりやすい傾向があります。

このバランスこそがゲームデザイナーの手腕なのでしょう。

では、どうすればよいのでしょうか。

2.一筋縄ではいかない

実は、「アグリコラ」では強カードと言われるものの中には使いこなすためにプレイヤーの技量が問われるものも多々あります。

【アグリコラ】初見殺しの例
(地主、ほら吹き、新しい土地、礼拝所)

効果自体が強力であっても、使用条件や運用判断が難しいピーキーなカードです。

私自身も、何度もカードが出せずに終わったり、プレイしても失敗に終わったりして、他人のプライングから学びつつ、少しずつ経験を重ね、使いこなせるようになった経緯があります。

この点、格闘ゲームに例えるならば、何度もコマンド入力を練習して、波動拳や昇竜拳が出せる喜びに似ているかもしれません。

また、経験者の超絶コンボに魅了されることも共通しているのではないでしょうか。

つまり、初見では使いこなせないようなクセが強いカードのおかげで、リプレイ性をもたらしているとも言えます。

また、クセに振り回され、経験者が敗北する場面も生み出しています。

ザンギエフの投げ技や瞬獄殺を狙いすぎて、全然決まらずに負けるとイメージしやすいでしょう。

アグリコラの拡張によるカードプールの大きさに加え、カードの使用・未使用、本人の得意・不得意もあって、経験者が全然振るわない盤面が多々ありうるのです。

なお、実際の初心者と経験者とのギャップについてですが、2022年3月から「福井アグリコラ会」をはじめ、その時から1年足らずで上達し、すでに肩を並べている方々がいらっしゃいます。
メンバーたちの努力や才能かもしれませんが、ギャップは案外あっさり埋まるものだなぁと思いました。

他の重量級に目を向けてみると、経験者にピーキーな固有能力を与え、ハンデをもたらすという方法として、「カヴェルナ」の拡張「忘れられた部族」が良い例かもしれません。

また、「アークノヴァ」の個人ボードにより、ハンデを付けるのも良心的設計だと思います。

3.カウボーイ<技師<大工

ここで特筆すべきは、「グレートウエスタントレイル(以下、「GWT」)」です。

GWT(第2版)


「カウボーイ」、「技師」、「大工」の3種の職人を雇うことで戦略が明確に分かれています。

  • 「カウボーイ」を雇うことで、勝利点付きの牛カードを安く買うことができ、出荷時の収入と勝利点が伸びていきます。

  • 「技師」を雇うことで、線路トラックを汽車が進み、ディスクや職人を置くことで、勝利点や終了時ボーナス点を獲得します。

  • 「大工」を雇うことで、マップ上に勝利点付きの私有の建物タイルを置き、自身がマスに止まった際に様々な効果を受けられます。

技師×大工戦略

さて、私が初めてGWTをプレイした際には、純粋に「カウボーイ」が強いと認識していました。
しかし、プレイ回数を重ねるごとに、「カウボーイ」だけでは限界を感じはじめ、むしろ、職人を駅長にし、再度雇うことでもう一度ボーナスを得られる「技師」の安定した強さを見出したのです。
そして、資金がかつかつで常にしんどいが、決まると最高に気持ちいい「大工」の私有建物コンボに気づくことになるのです。

つまり、習練度に応じて、各職人の戦略に対応できるようになったわけです。

おそらく、デザイナーであるアレクサンダー・フィスター氏の思惑はここにあると考えています。
テーマから直感的にイメージしやすい「カウボーイ」を一番扱いやすくし、次に「技師」で別の戦い方を知り、物足りなくなった上級者向けに「大工」を用意したのではないでしょうか。

先ほどの強カードの話と違うところは、戦略の分岐を分かりやすく明示した上で、プレイヤーのレベルアップに対応しているところです。

つまり、「この戦略が強い」と感じる部分が段階的に変わっていく。

フィスター氏の別作品「ブラックアウト香港」でも同じデザインを見ることができます。

この調査員に特化した戦略は、見通しがきくようになったからこそできる戦略です。

4.さらに進化するGWT

2023年、「グレートウエスタントレイル アルゼンチン(以下、「GWTA」)」が発売されました。

GWTA 個人ボード

GWTで気になる部分にメスを入れ、GWTAでは様々な改良が加えられています。

職人について言えば、「カウボーイ」は安定の使いやすさ、私有建物タイルの効果やコストが向上したので、「大工」が使いやすくなったという印象です。
一方で、技師は雇用ボーナスが削られたので、以前よりも扱いづらくなったかもしれません。とはいえ、疲労カード(いわゆる「呪い」)に耐性があるのは技師だと思います。

特に素晴らしい改善だと思ったのは、職人の平均雇いでも戦えるようになったことです。

GWTでは、基本的にはいずれかの職人に特化しないと恩恵が弱く、負けてしまうことが多々ありました。

なので、雇用市場でスムーズに狙いの職人が雇えるかが一つのポイントでもありました。
(小技として2人雇いもアリでした)

逆に言えば、特化して職人を雇えなかったプレイヤーは脱落していくところを、GWTAでは完全にフォロー。新たな戦略として、十分機能しています。

さらに「農夫」という新たな存在のおかげで、
平均雇いに手数がかかり、簡単にはいかないようにしている点も見逃せません。

何にせよ、非常におもしろい傑作に仕上がっています。

5.重量級は奥深い

まとめとなりますが、重量級をリプレイすることで扱える戦略が増えることをお伝えしてきました。

また、フィスター氏はプレイヤーの練度に応じ、戦略の捉え方が変わるデザインをしていると思います。天才。

ボードゲームで新たな戦略が見えるかは、あなたのチャレンジ精神と技量にかかっているのです。

みなさん、良きボドゲライフを!

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