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『ゾンビ』全米公開版について【2】

【ロメロのナイス選曲】

ロメロ版には、版権切れの古い映画から拝借してきた数々の既成サウンドトラックが使われている事は有名ですが、この選曲、シーンとのシンクロ具合のセンスが絶妙なのですよ。
実際にロメロが選んだのかは不明ですが、最終的にOKを出したのはロメロなわけで。

ほとんどの曲は、初めっからそのシーンに合わせて作ったとしか思えないハマり具合。シーンの緩急、カットの切れ目に合わせて楽曲も呼吸する、という映画音楽ならではの醍醐味を 存分に味あわせてくれます。 唯一、クライマックスでピーターが自殺を思い留まるシーンに流れる「ぱりらりら~♪」だけは、あまりにもトテツもなくて大いなる議論を呼びましたな。 しかし今となっては「何だかんだ言って、やっぱアレが流れないとな」ってことで、ファンの見解は ほぼ統一の方向に有るようです。めでたしめでたし。


エンドクレジットを飾る「THE GONK」の素晴らしさについては、もはや言うまでも無いですね。 あのスットボけた曲をラストに持って来ようという発想、そう簡単に出るモンじゃないですよ。大詰めの学校チャイムが かもし出す「はぁい、人類の世紀はこれにて終了でありまーす♪」って感じの、あの寂寞感たるや…

さぁ、サントラ持ってない人は、ココで試聴して改めてシミジミしましょう。

あと、ゴブリンの楽曲も数多く流用されてはおりますが、使用する箇所はDA版とは全く違います。
テーマ曲「L'Alba Dei Morti Viventi」のオリジナル・バージョンはDA版ではオープニングに使用されておりますが、ロメロ版ではヘリで脱出して一夜明けた朝のシーンと、トラック作戦の第2部スタートのあたりで流れます。 いずれも、この曲の最も正しい使い道だと私なんぞは思うのですが…

能天気なアクションを彩る「La Caccia」の使い方は、さらに
お見事です。

もう何度も語っておりますが、この曲が途中から転調するあたりの「どぅーん♪ どんどんどんどんどんどん…」とタメながら盛り上がるフレーズの使い道が、絶妙すぎて鼻血出そうなんですよ。

モール内自動車作戦では、車がゲートに辿り着くのに合わせて「ででででっと、でででとっと、でででっ、でででっ!」と綺麗に終わるあたり、 「うっひゃあ!キメられたぜ参ったねこりゃ」としか言いようがござらぬ。

そう。またしても問題発言ですが、ロメロって、ダリオ以上にゴブリンの楽曲を理解し、最大限に活かしてる気がするんですよ。

SWAT突入シーンに関しては、今にして思えば「ZOMBI」でギンギンにキメて欲しかったけど、他は ほぼ完璧。借り物音楽との奇妙なコントラストも含めて、このバージョンの音楽が一番バランスも まとまりも良いように思うのは、US版世代のヒイキ目って奴なんでしょうかねぇ…

【US版のナイスな編集】

シーンの編集についても語っておくならば、US版にしかない小粋な繋ぎも2、3ございます。

まずは、死体置き場でピーターが画面に向かって拳銃を構え、発射した瞬間に 管制室の死体にジャンプするつなぎ。「もしかしてスティーヴンが管制官を殺したの?」と微妙なミスリードを与える、面白い編集ですね。

ちなみにDA版ではピーターの銃声からヘリの爆音にジャンプ。
「でんでんでんでんでんでん」と膨張するゴブリンサウンドの頂点と完璧にシンクロした。こちらも見事な編集ではあります。

モールで背広ゾンビの眉間を撃ち抜くロジャーのアップから、その銃声を聞きつけたスティーヴンの姿にジャンプするつなぎもナイスです。 お陰で背広ゾンビが実際に脳天爆破されるショットはオミットされておりますが、つなぎのカッコ良さとしてはこっちの方が上かもしれません。

ピーターがモールのゲートを閉めるシーンで、不意に突っ込まれたゾンビの手を 構わずゲートでチョン切ってしまうショット。
US版のみ、ゲートを力づくで閉めるピーターの苦々しい顔にジャンプし、「がっちゃん…」という効果音だけで演出されてます。直接見せない方が、より残酷さがダイレクトに伝わるようにも思えますね。

そんなこんなで、すっかりヒイキ倒しなレビューになってしまいました。
やっぱ私なんざ このバージョンで育ったもんで、どこを取っても着慣れたセーターのように 一番シックリ来ますねえ。

そういうヒイキ目を抜きにしても、3バージョンの中間点に位置する、あらゆる意味でバランス良くまとまったバージョンとして、初見の方にオススメするにもベストだと思います。


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