見出し画像

『ゾンビ』ダリオ・アルジェント監修版について【2】

さて今回は、DA版の音楽についてです。
御存知のとおり、DA版と来れば 何と言ってもゴブリン。このバージョンでは、全編丸々がロックバンド、ゴブリンの音楽で埋め尽くされ、あっちでギンギンこっちでベンベンと、大変に賑やかでハイテンション極まりない仕上がりになってます。

ゴブリンが流れなきゃゾンビに非ず」というのがコアなオールドファンに伝わる定説でございまして、こういったハードな方々には、ロメロ版のいささかノンビリした選曲は、非常にウケが悪いようです。

その好みの差がハッキリするのが、冒頭近くのSWAT突入シーン。
この場面は 同じ映像にも関わらず、まるで別の映画のようにガラリと印象の変わる、極めて象徴的なシーンと言えます。

ロメロ版では、いかにもクラシックなSF/ホラーなムードの「Sinestre」という楽曲が採用され、突入の過程を、淡々とドキュメンタリーのように追って行く感じ。「ほえ~ん♪」という のどかな音色に、何とも言えぬ味わいが有ります。

対するダリオ版ではゴブリンの勇壮な「ZOMBI」という楽曲が使われ、「ででででっと でででとっと、でででっ!でででっ!」ってな強烈なサウンドで、同じシーンを完全にアクションとして徹底的にハードに塗り替えてみせます。

US版が初めてビデオ発売された時、劇場世代の多くのファンはロメロ版の「ほえ~ん♪」に大いに戸惑い、何だか気の抜けたビールのようだと不満の声を上げたと聞きます。
DC版とDA版の権利を買い付け、リバイバル公開&ビデオ発売を果たしたギャガ・コミュニケーションズのバイヤーたち、その名も「ゾンビ十字軍」の方々にしてからが、その最大のモチベーションはこのシーンにおける「ZOMBI」の復活だったそうで。

彼らが発行していた伝説の「ゾンビ新聞」にも書かれてましたが、イタリアからDA版のマスター・テープを取り寄せて社内鑑賞会を開いた時、SWAT突入時に「ZOMBI」が流れた瞬間、担当者の全員が椅子から飛び上がって拍手喝采したそうですわ。げに恐るべきは、劇場初見世代のゴリゴリなコダワリ…。

正直、US版の「ほえ~ん♪」に慣れ親しんでいた自分としては、初めてDA版を観た時には、映画音楽としての緩急ってモンを無視して、ただひたすらギンギンに鳴り続ける「ZOMBI」にはかなりの抵抗感を覚えました。なんか、『ゾンビ』が急に安っぽいB級アクション映画になっちゃった気がして…。

ただ、『ランド・オブ・ザ・デッド』の公開前夜祭オールナイトで大画面&大音量でDA版を観た時に、初めてこの選曲のド迫力とノリの良さに気付き、今ではすっかり宗旨変えしております。やはり映画は映画館で観ないと、その真価は測れないものです。

ただし…。この「ZOMBI」という曲、確かにカッコ良くてノリも良くて、アクションを盛り上げるには持って来いの名曲なのですが、DA版では、アッチでもコッチでも「アクション始まったらとりあえずコレかけとこ♪」とばかりに、何度も何度も使い回しておるのですわい。 実際に列挙してみましょうか。呆れますよー。

● SWAT突入で ででででっと♪
● 飛行場で、スティーヴンがゾンビに襲われて ででででっと♪
● ピーターが子供ゾンビに襲われて ででででっと♪
● ピー&ロジャの売場突入で ででででっと♪
● ピー&スティーヴンの合流シーンで ででででっと♪
● ロジャーがドライバー・ゾンビに襲われて ででででっと♪
● フランが尼さんゾンビに襲われて ででででっと♪
● ロジャーがトラックでゾンビに襲われて ででででっと♪
● ロジャーが足を噛まれて ででででっと♪
● 展示されてる乗用車に乗り込むシーンで ででででっと♪

以上、実に10箇所! ででででっとにもホドが有ります。この曲そのものは大好きなのですが、こんだけ使われたら、さすがに「またかよ」ってな気分にもなろうってもんです。

バンドが映画音楽を担当した時にアリガチな、10曲ぐらいの既成曲を、とりあえず使えそうなシーンにポコポコとハメ込んでゆくという やり方の弊害でしょうな。DA版至上主義者の方々に改めてお伺いしたいのですが、「ででででっと」をここまで使い回されて、正直なとこ耳にシンドくなった事って、ないっすか?もちろんゴブリンの楽曲は「ででででっと」だけでは無く、実はシンミリと静かなシーンに、名曲が多かったりします。

モール内で始末したゾンビたちを大掃除するシーンでは、脳天気な「Mall Montage Scene」で皮肉っぽく描いたロメロ版に対して、虐殺されたゾンビたちを静かに弔うような「Oblio」という曲でキメております。

↓これは「Mall Montage Scene」のほう。


こっちはゴブリンによる「Oblio」


私がこの映画で最も好きな、モールの屋上を朝日が染めるシーン。ロメロ版の「Sun High」はドンピシャリにハマってて本当に素晴らしいのですが、ゴブリンのピアノ曲「Risveglio」も鳥肌が立つほど美しく、まったく甲乙つけ難いところなのです。あー、サンプル音源が無くて、この場で皆様にお聞かせ出来ないのが超もどかしいです。

あと、ピーターの壁打ちテニスの球がモールの外に転がると…という例のシーンで、私が凄まじくコダワっている「ゴエ~ン♪」というジングル?が、これでもか!とばかりに叩きつけられる部分も最高! この「ゴエ~ン♪」に関しては、US版の章などでイヤというほど語らせて頂きます。ザラトゾムのモール乱入シーンでは、その名もズバリ「Zaratozom」という、いかにもロックらしいロックの曲が徹底的にフィーチャーされ、画面をプログレ・ハリケーンで埋め尽くします。

ただ… コレに関しても、私の個人的な意見を言わせて頂きますと、決して悪い曲では無いものの、あまりにも70年代然とした曲調のせいか、ココだけ急に時代性が出ちゃってる感が有るんですよね。「あー、こういう曲調が全盛だった頃の映画なんだよな」と現実に引き戻されるつーか、映画の普遍性を損なっているように思うのです。(多分わたし、今夜中にゴブリンのファンから大量のウィルス付きメールを喰らいます)

この曲はラストの、朝焼けの中をヘリが飛び立って行くシーンにも使われ、寂莫たる空しさを見せたロメロ版とは打って変わった、「おっしゃー! 次のモールにGo Go♪」みたいな 脳天気な後味を演出しております。

これについても、私は断然ロメロ版の方が好みですにゃあ。とか何とか好き放題を書き散らしたワケですが、やはりUS版世代の好みっつーか偏見っつーか、アヒルのヒナのインプリンティングのような価値観が丸出しの評価になってしまいますなぁ。

DA版世代の先輩諸氏からしてみれば、「これだからモグりはよぉ…」という苦々しい思いも山ほどお有りでしょう。ゼヒとも、以下のレス欄にて どしどし御反論下さいませ。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?