📏対称性の破れ

「対称性の破れ」または「対称性の創発」は、物理学やその他の科学分野で非常に重要な概念であり、物質の状態や振る舞いについて理解するための基本的な手法です。

対称性とは、ある変換（回転、鏡映、時間の進行など）があったとしても、システムの基本的な性質が変わらないという性質のことを指します。例えば、完全な円は回転に対する対称性を持っています。円を任意の角度で回転させても、その形状は変わらないからです。

一方、対称性の破れとは、システムが一見対称性を持っているように見えるにもかかわらず、その性質がある条件下で変化し、対称性が「壊れる」状況を指します。この現象は物質の性質を理解するために非常に重要で、特に素粒子物理学や固体物理学において重要な役割を果たしています。

たとえば、宇宙の大規模な構造は、どの方向から見ても大体同じであるという対称性を持っていると考えられています。しかし、詳しく観察すると、銀河や銀河団の配置は一様ではなく、この対称性が破れています。

また、ある種の相転移（例えば水が氷になるような状態の変化）でも対称性の破れが生じます。液体の水はあらゆる方向に対して対称性を持っていますが、氷に固まるとその対称性は破れ、特定の方向性を持つ結晶構造を形成します。

対称性の破れは物理学だけでなく、生物学や化学、そして社会科学などの広範な分野でも見られ、自然現象の多様性と複雑性を理解するための重要な手がかりを提供しています。

弱い相互作用とは？

「弱い相互作用」（または単に「弱相互作用」）は、素粒子物理学において四つの基本的な力（相互作用）の一つであり、その他の三つは重力、電磁力、強い相互作用です。

弱い相互作用は、その名前が示す通り、他の力と比べると非常に弱い力です。しかし、その影響は物質の性質や宇宙の進化にとって非常に重要です。

弱い相互作用は主に次のような現象に関与します：

1. ベータ崩壊：これは種類の原子核が別の種類の原子核に変わる過程で、中性子が陽子に変わり、同時に電子と反電子ニュートリノが放出されます。これは放射性元素が自然に崩壊する一つの形態であり、弱い相互作用の影響下で起こります。

2. 中性子の生成と消滅：これは、太陽内部や他の恒星内部で起こる核融合反応の一部として発生します。弱い相互作用はこの過程を制御し、結果的に太陽が放出するエネルギーと光を生成します。

また、弱い相互作用は「電弱統一理論」の一部として電磁力と統一されます。この理論は、高エネルギー状態（つまり、ビッグバン直後のような極めて高温の状態）では、電磁力と弱い相互作用は実質的に区別できない一つの力となると予測しています。この理論の予測は、素粒子物理学の実験によって高い信頼性を持つことが確認されています。

弱い相互作用は微細な力ですが、それが支配する現象は物質の基本的な性質と宇宙の構造を理解する上で非常に重要です。

弱い相互作用で起こる対称性の破れは、CP対称性の破れとして知られています。ここでの「C」は荷電共役対称性（Charge conjugation）を、「P」はパリティ対称性（Parity）をそれぞれ表します。

C対称性とは、物質と反物質を交換するという操作が行われたとき、物理法則が不変であるという対称性のことです。同様に、P対称性は空間の反転（すなわち、鏡像反転）に対する物理法則の不変性を指します。

1960年代初頭に、物理学者たちはCP対称性が弱い相互作用においても完全には保たれていないことを発見しました。これは「カイロン」（K中間子）と呼ばれる素粒子の崩壊において観察されました。このCP対称性の破れは、素粒子物理学において非常に重要な問題であり、この発見により1964年にジェームズ・クローニンとヴァレンティン・フィッチはノーベル物理学賞を受賞しました。

さらに進んで、現在ではCP対称性の破れは物質と反物質の間に存在する微妙な非対称性を説明するための重要な要素となっています。ビッグバン直後の宇宙では物質と反物質が同量生成されたはずですが、現在の宇宙はほとんど物質だけで構成されています。この謎を説明する一つの方法として、物質と反物質の間の微妙な非対称性、つまりCP対称性の破れが考えられています。

しかし、今のところ我々が観測しているCP対称性の破れの程度は、宇宙に存在する物質の量を説明するには不十分であり、その完全な理解にはまだ達していないと言われています。この問題は現在も物理学者たちが解明を試みている活発な研究領域であり、素粒子物理学と宇宙論の交点に位置しています。

新版 自然界における左と右