鼠に憑かれた人妻

表題

鼠のつきたる人妻


概要

 小納戸役(こなんどやく)(備考欄を参照)の戸張某に仕える馬飼いの妻が鼠に憑かれ、足の爪や指などをかじられるようになった。鼠の害を逃れるために馬飼いの妻は櫃(蓋のある大型木箱)に入って寝るようになったが、数百匹の鼠が櫃を破って侵入したために死に至った。

訳文

 御小納戸戸張何某の馬飼いの妻に鼠がついた。鼠が足の爪をかじり、次第に指や髪の毛もかじるようになったため、馬飼いの妻は少しも眠ることができなくなった。あまりにも鼠を遮ることができないので妻は一つの櫃に入って寝ていたが、櫃を破った数百匹の鼠のせいで死に至ったということだ。

原文

 御小納戸戸張何某が馬飼の妻に鼠つきて、脚の爪を夜な夜な喰ひて段々指をかみ髪を喰ひ、いささかも眠るあたはず、あまりにふせぎかねて一ツの櫃に入て寐たりしが、そこをあばき数百の鼠の為に死に至りしとぞ

出典

『事々録 巻一』天保2年‐嘉永2年(1831年‐1849年)刊(『未刊随筆百種 第3巻』、中央公論社、1976年

備考

 小納戸役とは将軍に近侍して理髪や庭方、馬方などの雑務を担当した江戸幕府の役職のこと。

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