合わせ鏡というか俺の美意識
丑三つ時に合わせ鏡を覗くと死んだ自分が映り、お迎えに来る。そんな感じだったと思うが、人面犬とか学校の七不思議(これは痛い目にあった)とか流行った頃、合わせ鏡の怪もウワサになった。人面犬や高速婆さんやテケテケの類は、まず出会わないといけない、という難点があるが、合わせ鏡は簡単だ。あとは2時ごろという夜中に起きているという点があるだけ。
さっそく個々に試そうぜ、と言うことになった。もしうまくいったら、お迎えが来て、もう次の日に学校でその成果について伝えることもできないというのに。
まずは、鏡だ。洗面台に設置されてる一枚鏡がひとつ、あとは母ちゃんが時々持ってたような気がする大きめの手鏡を探すが、見つからない(多分、ふつうに洗面所の棚あたりなんだが、その辺を漁るという発想はその頃はなかった)。妹のテクマクマヤコンコンパクトはマジックでなんかハートやらなんやらが描きこんであり、しかもシール式の鏡もどきのため、まともには見えない。じゃあ、俺のスタンドミラー?机とかに置けるやつ。あるんだが、俺のそれも、「北斗の拳」のそれで、鏡面にデカデカとケンシロウやラオウがそそり立っており、ほとんど何が映ってるのかわからないシロモノだ。
恐ろしいことに、このほとんど鏡像が見えない北斗の拳ミラーを、俺は大学一年の初期まで使っていた。何を見て、何を整えてたんだ?俺の美意識というのは、顔面、頭部には発揮されなかったのか?そんなことはもちろんない。その時々で俺なりに「カッコいい」という見た目があり、鏡を見て髪型を整えたりしていた。気になる子も大勢おり、その子に良く見てもらおうと、、、、いや、不思議なことに、今気づいたが、その子というか、異性にウケる(と思う)見た目に調整してはなかったように思う。少なくとも19歳くらいまでは。マジか。
「ブラックレイン」で松田優作が演じたヤクザの佐藤の髪型とか、「ターミネーター」のシュワちゃんの髪型とか、「マッドマックス」のマックスの髪型とか、ブルーハーツのヒロトの髪型とか、、、どれも、たぶん、女性ウケしない。そして、カッコ良いわけでもない。が、当時の思春期の俺はカッコ良いって思ってた。そして、それらにちょいちょいっと整えるには視界不良ケンシロウミラーで十分だった。鼻毛をカットしたりもこれでオッケー。つまり、これさえあればティーンの頃の俺のオシャレは成立していたわけだ。厳密に言うと、駅前で11才の頃拾ってきた、スクーターのサイドミラー(棒付き)も駆使していたが。ちなみに言うとくと、鼻の頭をサバイバルナイフで切って、その傷に絆創膏貼るのもカッコいいと思ってました、13才か14才くらいの時ね。ダサっ、ていうか、コワっ。キモっ。そら、モテやんわな。それも、ケンシロウミラー見ながらやってた。
えーと、なんの話でした?鏡合わせだ。なので、家ではそれを試せず、そもそも、やはり2時に起きているというハードルは思いの外高く、俺だけでなく友人どもも完遂できずにいた。俺は当時、大阪に暮らしていたが、ばあちゃん家は三重県で、そのばあちゃんちの二階の廊下の奥に、豪華な布がかぶされた三面鏡があるのを思い出した。もうすっかり鏡合わせブームも過ぎ去った高校生の頃だ。
ブームは去ったが、やはり気になる。高校生にとって2時はなんでもない。なんだったら大阪の自宅で母ちゃんの手鏡も発見していたので、いつでも試せたが、雰囲気ありまくりなその二階の鏡を使いたいと思っていた。いよいよ、試せる機会がやってきて、ひとり夜中の二階へギシギシと軋む階段を上り、廊下を進み、布を取り去り、鏡を開いた。そこには「佐藤」の髪型のゴツい男がズラリ。どの佐藤が俺を迎えに来るのかよく分からなかったが、佐藤の人数を数えられるだけ数えたりして満足して鏡を閉じ、布をかぶせた。
思ってたホラーな結果は得られなかったが、シラけたりはしなかった。今となってはつまらないことながら、遂にやったという小さな感慨を得、ちょっとだけゾクゾクも感じ、満足してそのまま二階の畳の上に転がり、朝まで漫画を読みながら寝た。
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