MMOS02

 小俣駅のミスターミステリアスはその後もほぼ毎日反対側ホーム、時にはこっち側のホームに渡ってきて、発券機から整理券を数枚は取っていた。最初に出会った時から程なくして気づいたことがあった。ある女の子の少し後を歩き、列車に乗り込むのを見送っているようなのだ。会話もなく視線を合わせるということもしてなさそうに見えたが、親子なんかな?と想像できた。まったく骨格や顔つきや姿勢は似ていなかったが。それにしても、無人ホームで実質入場料を払わなくても済むからといって中学生の子をホームまで見送るだろうか?愛情深い行動ではあるが、治安も悪くないし、一見して肉体的にもその子は列車に乗り込むのに危なげはないし。いや、ひょっとして過去に怖い経験をしたのかも知れないけど、それにしてもホームに着くとその子は、他の友人と普通に談笑しており、不安なムードはこのホームとその子の間には漂っていなく見える。そして、列車が発車するのを少し名残惜しそうに見送ると、しばらくホーム、というか時刻表をぼんやり眺め、整理券を収集して帰って行く。
 4月ごろ、新しく通学でこの駅を使うことになった子たちが、そのMMOSを見て、一瞬ざわつくが、それだけのことだ。ある日、ついに、親子が普通に前後に並び普通に会話しているのを聞いた。いたって普通の短いやり取りで、「大丈夫?」などの心配ワードは出ていなかった。そうこうしているうちに5年ほど経過し、女の子も明らかに卒業間近な高校生の雰囲気(若干素朴だが)になっていたが、父は相変わらず少しルーズな上着(ジャージを羽織っていることが多かった)にボンタンなどにつっかけかスニーカーという装い。メガネのレンズは分厚く、少し汚れている。そして相変わらず、見送り、整理券。

 気がつくと、二人の姿を見なくなっていた。娘が高校を卒業して、少なくともその時間帯のそっち方面行き列車を使わない暮らしになったんだろう。今も大学か仕事に出かける娘を見送っているのだろうか。俺の想像はこうだ。兼業、専業問わず、農家が多いこの地域では一般的な朝の通勤時間開始時に少し手の空く父もいるだろう。あるいは、心身症を患う父が、かつて通学時にいじめにあったことのある娘が心配で、小学校への登校を見送るようになる。中学校は私立に通わせることで、人間関係に変化をつけたがしかし、見送りは続け、娘もその朝の行動様式を受け入れた(夕方は無い)。高校に入り、もはや見送りは必要なくなったが、親子にとっては安定を育む一時になっていた、、、。みたいな。

いやしかし、整理券、、、。なにに使うんだ。ミステリアス。

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