順列階層都市 アルマエラ
順列階層都市 アルマエラ。
それは円柱状に建設された巨大な建造物であり、死の星となった地球に残された人類最後の生存圏である。
そこは富める者は上層で優雅に暮らすことができ、最上層ともなれば毎夜星屑の雨を眺めることが出来るという。
その一方、俺のような持たざる者は薄暗く汚れた下層でその日その日を這いつくばって生きなければならない。それに異を唱えた者は姿を消す。そんな話は飽きるほど聞いたし、俺の知り合いも何人か消えている。
高望みはせず、欲は表に出さず、上からの言葉には逆らわない。
それが下層で生きていく人間の常識である。
今まで俺はそれを守ってきたし、これからもそれを守り生きていくはずだ。
そのはずだった。
――人気の無い狭い路地裏。
俺の目の前に今、男が転がっている。
下層の人間には目にすることすら難しい上等なスーツを身に纏った男の額には小さな穴。
そこから流れる赤い血と生気を失った両目。
それが死体であることは明白であった。
硝煙立ち上る拳銃を手に俺は自らの行いに恐怖し震えるしかなかった。
「愚鈍」
愕然とする俺のすぐ横を飛び回る小型ボット。それが映し出したホログラム画像の主が呆れたように呟く
「早くアレが持っているケースを回収なさい。すぐに人が来るわ」
ホログラムに映し出された人物は俺よりも幾分も、まだ少女と呼べるほどに若い女だった。だが、人を見下した冷酷な視線や、他人を手足の如く扱うことに慣れた口ぶりから彼女が生まれ持っての支配者階級、上層の人間であることを示唆していた。
「ふざけるな!」
相手が上層の人間などお構いなしに、俺はただ感情に任せ激高した。
「なんで俺がこんなことしなきゃならない!?」
「嫌なの?」
「当たり前だ!」
「そう。それは残念ね」
溜息をつく少女。その右の掌にある物が浮かび上がる。
規則正しく脈打つそれは、昨日奪われた俺の心臓だった。
「残念ついでにこれは握り潰すわ」
「チョットマッテ」
【続く】
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