リピート・ミスター・デッドマン

「来ないで!!」

目の前の女が拒絶の言葉を叫び、大型のスコップの先と敵意剥き出しの瞳をこちらに向ける。

俺はダラリと下がった両腕をなんとか天へと掲げ、出来うる限りの笑顔を作った。

だが、女の顔から警戒の色が消えることはない。

俺は小さく溜息をつき、半ば諦め気味に、

『安心してくれ、襲う気なんて無い』

そう言葉を発した。発したのだが、

「ウゥゥウウ、アァァアア」

実際に紡がれたのは地の底から這い出るような呻き声。

女は絶叫し、俺は『ああ、やっぱり』と肩を落とす。途端、腐りかけの頭がグラリと傾いた。

ここまで言えばまぁ、察しがつくだろう。

俺はゾンビだ。

別に他のゾンビに襲われたわけでも、吸血鬼に咬まれたわけでもなく、2日前の7月12日の朝に目覚めるとこんな姿になっていた。

さぞかし周囲の人から恐れられただろうと思われるかもしれないが、そんなことはない。なぜなら街に住む全員がゾンビ化していたからだ。なんらかのウィルスが原因と考えられるが、いかんせん皆「うーうー」しか言わないのでそこのところはさっぱり分からない。

そんな中見つけたのが今目の前にいる彼女だ。この街で唯一ゾンビ化していない彼女になんとか話を聞こうと思い近づいたが、現状思いっきり警戒されているというわけである。

どうしたものか。そう思いなんとなく腕を下ろした瞬間だった。

「イヤー!」

悲鳴とも掛け声ともとれる絶叫と共に、彼女は手に持ったスコップを俺の顔面めがけてフルスイングした。

想像絶する衝撃が襲い、そして俺の意識は深い闇の奥へと……


pi pi pi pi ……

単調な電子音が鳴り響き俺は覚醒した。

最初に目にしたのは見知った天井。どうやら自室のベッドの上で眠っていたようだ。

音の主のスマホを見やると、示す時は7月12日の朝7時。

俺は大きく息をはいた。

嫌な夢を見たものだ。そう思いながらスマホに腕をのばす。

その腕を見て俺は愕然とした。

そんな!

まさか!

【続く】




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