【学校で習う弦の振動理論のことで】

おまけの話ですが、弦の振動を表す理論につきましては、通常高校生もしくは大学の1・2年次に物理等、あるいは、専門科目で習います。ピアノ、バイオリン、ギター、あるいは、声楽などに関連しており、非常に高額の授業料を払っている音楽専門の音楽大学でも、あるいは、音楽専門の楽器メーカーでもこの理論を正しいものとして、疑いもなく使っています。

最新の話のようにして学校で教わりますが、この理論はいつ頃のものかご存じでしょうか?なんと、鎌倉時代や安土桃山時代にできた理論です。江戸時代より遙か昔です。軽く600年ほども昔に、レオナルド・ダ・ビンチが発案し、500年ほど前にガリレオ・ガリレイのお父さんが力学理論として定式化したものです。もちろん、フーリエ変換、ラプラス変換、高速フーリエ変換演算、短時間フーリエ変換、大規模有限要素法など、計算手法は発達しましたが、基本的な考え方は500年昔のままです。

皆さんのまわりで500年も昔の理論に基づいているものがございますでしょうか?そもそも500年も昔の弦の振動理論は正しいでしょうか?携帯電話があり、Syncroomで同時演奏でき、遙か彼方の小惑星「リュウグウ」の砂を採って戻ってこられるような世の中において、その基本理論はどうでしょうかねー?おそらく間違いではないけど、正しくはないような気がします。正しくないというよりは、大幅に足りないでしょう。

たとえば5弦の開放弦を弾いて音を出します。両端を節とする波が見えます。これを「定在波」といいます。ちなみに元素の周期表において、電子が存在する軌道が連続的ではなく、飛び飛びに存在するのも、実は「シュレディンガーの波動方程式」から求められる「定在波」のしくみによります。弦の定在波を見ますと、たしかに500年も昔のものではありますが、弦の振動理論は正しいように思われます。

ただし、音を出す際に指から弦に加えたエネルギー量と、横波による振動エネルギー量を比べますと、横波の振動エネルギー量は、指から加えたエネルギー量のわずか数%の大きさしかありません。残り9割以上の、大多数のエネルギー消費現象をこの理論では説明できません。おそらく何かが足りないのでしょう。たぶん、もっと大切な重要事項が欠落しているように思われます。

音楽に関係する力学は「古典力学」と呼ばれています。ニュートン力学からアインシュタインの力学に変わった頃に、原子や素粒子の振動に関しては量子力学において「シュレディンガーの波動方程式」による定式化が行われました。新しい力学と解析技術があるので、「リュウグウ」からちゃんと戻ってこられる訳です。

楽器や音楽の分野は500年前のままです。逆に非常に驚くべきことのような気がします。小生は全く音楽とは関係しないものでありまして言える立場ではありませんが、「もう少し科学的なアプローチもされたらどうでしょうか?」と思います。きっとわかることがたくさんある。


昔から変わることの少ない、いわばレトロにも見える分野かもしれません。しかしながら、傍から見ますと、そこにはたくさんの研究テーマが埋もれています。研究テーマの宝庫だし、しかも空いている。すぐに世界の最先端になれる。ただし、現状の高校や大学での講義レベルではダメなんだなあ。解明されれば楽器の製造、演奏法の改善、レッスンの教え方、会場の設計など、いろんなことに応用できます。とくに、演奏家や製作者がそれぞれ極められた技術やノウハウにつきましては、ご自分ではいとも簡単に実施できます。ところが、その技を後世に伝授するのが難しい。と申しますのは、誰でも共通に使える客観的な指標で表せないからです。その際にきっと役に立つでしょう。

いま「リュウグウ」を扱ってみたいと思っているような、若くてずば抜けた頭脳の持ち主のうちの、ほんの数名がこの分野を志せばいい。ところが、残念ながら仕事として研究できる場所がないようですね。惜しいですねえ。だから500年にもわたって変わっていないのでしょうね。「ドルチェ&ガッバーナとか言うて、格好良かごとギターば弾いとるばってんさ、あんたのギターの理論はね、大昔、鎌倉時代か安土桃山時代のものらしかよ。」これは余談でした。