バラスト軌道の和音

すみません。どうでも良い話ですし、説明不足でわかりにくいかもしれません。「砕石(バラスト)」と「まくらぎ」で出来ている線路のことを「バラスト軌道」といいます。国内に2万kmもあります。徐々に砕石が摩耗するのですが、そのメカニズムがまだよく分かっておりません。以下は7~8年以前のものです。以前も一部をアップしたことがありますが、ここでバラスト軌道の振動モードを音階でみてみます。
 
【写真1枚目】軌道での現場測定、実物大実験で、軌道の振動に関連する固有モードを明らかにしました。さらに、スパコンでの粒状体解析で、その妥当性を確認しました。表記が英語なのでよく分からないと思いますが、表はまくらぎと、砕石層の振動に関する代表的なモードの一覧です。

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【写真2枚目】ト音記号に全部書いています。関連する振動を音に置き換えたものです。ギターの場合は、記譜が1オクターブずれていますので、実際にならす場合はこれよりオクターブ上です。ここで重要なのは、バラスト層が弾性体として振動する「弾性振動モード」でD#4です。これがバラスト層の基本周波数です。車輪がまくらぎの上に乗っている場合は、まくらぎと砕石層がぴったりくっついて概ね連続体になります。その場合はバラスト層はD#4の音で上下方向に振動します。この振動モードでは、列車の走行荷重が過不足無く路盤に伝わるので、軌道は劣化しません。
 
ところが、車輪が通り過ぎると、まくらぎと砕石層の間に隙間が出来るため、振動モードが変わります。G2もしくはG#2の低い振動になります。あるいは、もともとまくらぎと砕石層の間に隙間がある場合も、同じ振動モードが発生します。「剛体振動モード」と言って、まくらぎがバラスト層を強く叩くモードです。しかも、この低い周波数になると変位が10倍の大きさになるので、砕石を摩耗や流動させる原因になります。両者の関係はほぼ3倍音の関係です。たかが砕石の集まりではありますが、そこに3倍音の美しい響きの関係があるというのがちょっと驚きです。
 

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【写真3枚目】転がり接触解析という手法で、実形状の車輪の詳細モデルを転がして加速させる計算を行いました。その計算結果の一部ですが、車輪が転がって走行する際の上下動のモードが196Hzにあることがわかりました。音階でいうとG3です。これは上述の砕石層の「剛体振動モード」とほぼオクターブの関係になっています。つまり、列車が走行すると、必然的に、まくらぎがバラスト層を強く叩く「剛体振動モード」が励起されることが予想されます。

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【写真4枚目】特急列車が走行する際の現場測定データの一例です。600Hz~650Hzあたりに、加速度応答のピークがあります。これは上述の「弾性振動モード」とほぼオクターブの関係になっていますので、おそらく、バラスト層の「弾性振動モード」の2倍音のせいで大きく振動しているものと思われます。
 
ただし、通常は2倍音は、逆位相になるので、それほど大きな振動になることはありません。ところが、この測定結果では非常に大きな応答になっています。これがどうしてかといいますと、写真3枚目の車輪が転がる際の上下動のモードの概ね3倍音になっているからです。つまり、車輪が走行する際の3倍音が励起され、それが、バラスト層の基本振動モードの2倍音とほぼ同じになるため、振動が必然的に大きくなるしくみだったということが明らかになりました。
 
鉄道の軌道は、単なる砕石の塊に過ぎないと思われていますが、そのなかにオクターブと3倍音からなる規則的な関係があるということです。これは、音楽をやっている方でしたら、容易に音の関係を理解できます。ところが、鉄道の関係者には全く伝わりません。難しいですね。おしまい。

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