道具が進化するということ

noteの会員構成がどうなっているのか詳しくはわからないが、私は自分が会員の年齢上位5パーセントに含まれているのではないかと勝手に思っている。もうちょっと頑張っても8パーセントくらいであって私より先輩の方が1割いるとはなんだか思えない。

そんな年齢の私だから、初めて買った音楽媒体は当然CDではなくレコードである。

中山千夏の「あなたの心に」。今から思うときれいなメロディーに惹かれたのだと思う。曲の展開も複雑ではなく歌いやすかったし、歌詞の内容も当時中学生だった私にも理解できる淡い恋の歌だった。

レコードの時代、曲を聴くためには家にあるレコードプレイヤーにレコード盤をセットする。それは「わが家の」プレイヤーであって、「自分の」プレイヤーではない。音楽は自分の聴きたいときに聴きたい場所で聴くものではなかった。将来への不安、友達との行き違い、縮こまってしまった自分の心に音楽が寄り添ってほしい青春の日、音楽を聴くには小さなラジオの方が身近な存在だったと言える。

その次にカセットテープがやってきた。ラジカセの時代である。頑張れば自分で好きなようにテープを編集して好きな曲を聴くことが出来た。今でいうプレイリストを時間と手間をかけて自分で作ったのである。割れやすいレコード盤は慎重に扱う必要があるがカセットテープは軽くて丈夫、さらにラジカセは持ち歩くことが出来た。自分の部屋にこもって聴くだけではなく外へも持ち出せるのである。音楽を楽しむシーンが劇的に増えた。

そしてウォークマンの登場である。何ということ!歩きながら自分の好きな音楽を聴くことが出来る!電車に乗って聴けばラッシュの車内だってたちどころに背景が変わり私はスクリーンの主役にもなれる。自分の世界をどこにでも連れて行くことが出来るようになった、まさにポータブルなプレイヤーだ。

こうしてプレイヤーはパーソナルになりポータブルになり、記録媒体はレコードからカセット、CD、そしてメモリへとどんどん小さく軽くなり、ipodの人気を経て現在は音楽を聴くならスマートフォンである。曲をダウンロードすることさえなくなった。昔はラジオをイヤホンで聞いて好きな曲が流れるのを待ったものだが、今はアプリを操作して自分の好きなプレイリストを選べばよい。いつでもどこでも自分の聴きたい曲を聴くことが出来る。

この半世紀の間に記録媒体と再生装置は何と変化したのだろう。そして今やそれすら必要とせず通信環境とアプリがあれば音楽を楽しめるのだ。

50年前家族のいる居間で、自分の買ったレコードを聴き漠然と遠い未来を考えていた少女は、今、目の前に来ている老後の生活に向けて脚力を鍛えるべく一人でウォーキングをしながら、まさに「サブスクでヒゲダンを聴いている」のである。


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