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父と娘と首長竜

「パパ!ママ!きょうりゅうがいるよ!」

ドライブ中、後部座席にいる5歳半のムスメが何かを指さした。

「どれ?」と妻が聞くが、
僕は運転中で様子がよくわからない。
ただ、「何か」が脳裏にゆるく
引っかかる感触があった。

「でんちゅうのうえだよー!」

その言葉に「もしや」という想いがよぎり、
視界を流れる電信柱を見やった。

「あああ」

僕は変な声を出した。
そして少し胸が熱くなって、何故だかにやにやしていた。
僕の目は電信柱にくくりつけられた街灯を捉えた。
「もしや」があまりにも想像通りで少し驚く。

「ねえ、その恐竜さんは、首長竜かな?」
「うん!」
「電柱にだきついてるみたいだよね」
「うん!」
「あははは、パパも小さい頃、おんなじこと思ってたのを思い出したよ。でも、誰にも話さないで大人になってしまって、さっきまであの首長竜さんのことを忘れてたんだ」
「ふーん」

まあ、確かに「ふーん」な話なのだけれど、かつての自分が思ったけど、誰にも話さなかったこと。そのまま忘れ去るはずだったことが、急に自分のこどもとつながったこと。そして、こいつはそれをすぐに僕に告げたこと。

本当に何でもない出来事なのだけれど、なんだか、誰かに話したくなって、ここに書いてみた。そうだ。記憶とか想いは、誰かに話すと残るんだ。

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