普通だけど普通じゃない男

稲葉さんの初の書籍「シアン」のSELECTION版が発売されましたね。私は発売日に手元に届くなり、ビニールを引きちぎり、インタビューページを貪るようにして読みました。

以下に書くことは全くネタバレではないのでご安心を。ただ、稲葉さんと自分を重ね合わせて書いてみただけです。

私、前職は文章を書く仕事をしておりました。地方ではわりと珍しい職種なので、特に若い子と話す機会があると結構な割合で「私も興味あります!どうやったらその仕事に就けますか?」と聞かれました。そのたびに私はただ一言こう答えていました。

「ライターっていう肩書きを載せた名刺を刷って、たくさん配ればいいよ!」と。

皆さんキョトンとするんですが、本当にそれだけなんです。だって資格なんていらないのだから、自分に肩書きさえつければその日から誰でもライターになれる。
文章を書くのが苦手な人にはさすがに無理ですが、このご時世、各種SNSを見ていてもプロじゃなくても素晴らしい文章を書く人は本当に多い。それこそ嫉妬するほどうまい人、たくさんいます。そういう方はすぐにでもなれます。間違いなく。(ただ、自分が書きたいものを好きなように書くのと、クライアントの要望に沿った文章を書くのは少し勝手が違いますけどね。)

稲葉さんが「歌詞は誰でも書ける」って言うのもそれと同じだと思います。そして、誤解を恐れずに言うならば、超一流のミュージシャンである稲葉さんがご自身のことを「天賦の才能はない」って言っているのは決して謙遜ではなくて、本当にそうなのかもしれない。

私は文章を書くのが幼い頃からそこそこ得意だったんですが、それを生業にしてみて初めて自分には全く才能がないことに気づきました。つまり、「普通の人よりちょっと得意ではあるけど、得意な人たちの中に入ったら下の下」ということです。これは、得意な人たちの中に飛び込んでみないとわからないことです。

私たち素人は稲葉さんはほんとにすごいと思っているけれど、稲葉さん自身はプロの音楽業界に身を置いて、冷静に自己分析してそう思ったのかも知れない。プロの世界にはそこでしかわからないレベルの差がある。努力でどうにかなるのはある一定のレベルまでで、それ以上を目指したら天賦の才能の有無がものを言います。これはもうどうしようもない。

ただし、稲葉さんが持っている声は、間違いなく天賦の才能。
そして歌唱についても作詞についても、彼は自分に求められているものを深く理解して、それに応えようと35年もの間鍛錬を重ねた結果、誰も到達し得ないような高みに上り詰めた(というより恐ろしいことに間違いなくまだ道半ば)のだろうと思います。

その生真面目さは、決して普通じゃないです。尋常じゃないです。努力し続ける力、これもまた天賦の才能です。

そもそも、芸術系を中心とする趣味が昂じて系の仕事って、仕事にした途端むちゃくちゃしんどい職業だと思うんですよね。趣味で嗜むぐらいがいちばん楽しかったりする。(現に今の私がそう)
稲葉さんは「音楽で食べていこうという強い意志があったわけではなく、流されるまま始めた」と折に触れて仰ってますが、流されっぱなしで務まる仕事ではないし、ましてやあんなビッグアーティストになんてなれません。
作詞に苦労していたデビュー当時は、すでに有名で実力もあり明確なビジョンを持っていた松本さんと自分との差に焦りや不安も感じていたのではないかと思います。でもそこで折れてしまわなかったのは、稲葉さんの尋常じゃない生真面目さと、松本さんがプロデューサーとして、パートナーとして、稲葉さんを見守り育てスターダムの道へと誘ってきた結果なのでしょう。

天賦の才能も努力なしに開花することはないし、運良く開花したとしても短命で終わってしまう。何はともあれ続けること、やめないことが大事なんだろうなと思います。
私自身もフリーランスで1人で食べていけるまでに3年かかりました。もうやめようとか、やめるまではいかずとも、あまりにも食べていけなくてバイトでもしようかと思ったことは数知れず。そのたび母に「3年続けてみたら?」と諭され、3年続けたらほんとに仕事が増えました。あそこでもし生活のためにバイトしてたら、多分本業で食べていくことはできなかったかも。月に数万しか稼げず、実家の世話になっていることに羞恥心を感じていたけれど、それは必要な恥だった。退路を絶ったから頑張れたんだと思います。お母さんありがとう。

金なしコネなしスキルなし実績なしの人間が、何とかやってこれたのは、ないない尽くしなくせに、いかにも自分はできますよ的な顔をして名刺をばら撒く勇気と諦めないで続ける根性があっただけということです。

稲葉さんと自分を重ねるのは失礼にも程があるよな、レベルが違うんじゃレベルが!!と自分に突っ込みたくなりますが、稲葉さんのベースに自分は普通の人間だっていう感覚があるからこそ、ファンも彼の書く歌詞に自分を投影して共感するんだろうし、それはある意味、稲葉さんと自分を重ね合わせてるってことなんだよな、なんて思ったりします。

シアン、まだ読んでない方もいると思いますが、インタビューも歌詞ノートも写真も、見応えありまくりなのでぜひ!!完全版も楽しみです。

それではこのへんで。
せーのっ!!
おつかれ~


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