徒然草をひもとく 4章 (37)続、136段、

 135段にひき続き、宮中で物識り自慢が足をすくわれる逸話、登場人物は医師❨くすし❩篤しげ、歴代医家の出で、14世紀前半ころ、後宇多法皇に仕えていた人物。その日も、法皇の御膳が運ばれたのを検分し「この御食膳のいろいろの、文字や効能をお尋ね頂いくと、私は、そらでお答え申し上げます、そのあと、薬用植物、鉱物の本草書で照らし合わされましたら、ひとつも間違ってはおりますまい」と申し上げていた折しも、学識に富んただ重臣、故内大臣有房卿が参内され、それを聞かれ「それではこの有房も、ついでに、習つておきましょう」と言われ「まづ、しほ、という文字は、いずれのへん(編)にあるのですかな」と訊かれたところ、即座に「土篇でございます」こたえた。部首の篇を文字の偏とかん違いしたのだが、相手の有房卿はそんな程度のことをお尋ねになる方ではないだけに、うんざりされて「あんたの学のほどは、解りましたよ、今はそれでいいけれど、謙虚でないね」といわれ、一同どっと大笑いし、医師篤しげは、面目を失って退出してしまった。という話。
 漢字は、同じ音ながら、意味の違う語がいくらでもあり、たしかにややこしい。意味は勿論、時と場合や、相手をみきわめたうえで、使いわけねければならない。
 この場合も、よく考え、相手を見極めないと、とんだ失敗をしてしまう例でもある。
 いずれにしても、なにか自分に、ひとにぬきんでて得意な分野があろうとも、つつしみを忘れず、出しゃばらないで平常心を保って謙虚でいることの大切さを、半ば笑い話に託して説いたふたつの挿話であった。


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