徒然草とともに 4章 ⑤

 104段、書き始めの文が、文庫版で6行、およそ156文字ちながっている。 古典文は文節が一般に長目なのが多く、なおのこと情緒纏綿という感じを醸し出す。
 荒れたる宿の人目なきに、女の憚ることあるころにて、?どこかで聞いたような、と思い返すと、…
 32段、長月二十日の頃、月の美しい夜、書き手は貴人のお供をしている、という設定もほぼ同じで、お供にしては、部屋うちの様子にまで描写がゆき届いている書きぶり、ま】“わざとならぬ匂い、しめやかにうちかおりて、忍びたるけはい いとものあわれなり”などの表現、季節は、こちらは長月ではなくて卯月、体験メモにしても創作メモにしても、設定に共通項が多いのが興味深い。
 源氏物語の世界もそうだが、あの時代、つまり貴族社会、互いの人間関係は、狭くて驚くほど濃密だつたような気がする。
 話は少し変わるけれども、1938年に、発見されたものの、実録としては、あまりにあからさまで、宮内庁から禁書にされていた、という「問わず語り」の存在を、はじめて、私に教えてくれたのは、大学で国文学を選考し、当時読売新聞の記者で、編集にもかかわっていた友人のBさんだった。戦後昭和30年頃から、世に出はじめ、海外でも注目され始めていたらしいが、これが書かれ、文書として成立したのが、もともと1306年と記録されていて、兼好推定年齢20代前半ころとあるので、おそらく読んでいて、なんらかの感銘を受けていたかも知れないとも思う。
 貴族社会に生まれながら、世を憚る女性は、しばしの間にせよ、当時はすくなからずいたのかもしれない。
 若いころは、外国文學にばかり気を取られていたので、日本の古典文学へのアプローチは、到底深くもひろくもないが、同じ民族の強みというか、京の都にさほど遠くない土地に、代々何百年も暮らした先祖を持っていると、民族の暮らしの感性みたいなものが、どこか響きあうものがあるような気がしている。
 引き続き読んでいきたいと思っている。

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