徒然草をひもといて 5章(32]191段「夜には入りて……」

 物のはえなし」という人、とつづく。そして兼好法師はそういう人を「いとくちをし」とこきおろす。なぜなら、かれによれば、すべての物の綺羅、飾り、色合いなどは夜だけこそ素晴らしいのであって、昼は簡略で落ち着いたすがたでもよかろうが、夜は綺羅びやかで華やいだ装いがとてもよいものだ。人の様子も夜の火影のもとでは、佳きひとはなおさらよく、ものなど言う声も暗がりで聞くと、気配りある言い方は心憎く惹きつけられる。匂いも、ものの音も、ただ夜こそ、ひときわ素晴らしい。
 というのが、この段の最初のいっせつである。たしか谷崎潤一郎の随想に「陰影礼讃」というのがあり、当時、文学同好者たちの多くに賛同を得たことがあった記憶がある。日本人のおおくが持ち合わせている感性でもあろうか。この段はまだ数行、さらに具体性を帯びてつづくが、今日はこれで、



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