徒然草をひもといて 4章 (36)135段、136段、続き

 博学で、有職故実の識見はもとより、よろずのことに通じていると評判の、さる大納言入道、あるとき、宮中で 30歳ほど年の差ある参議左中将に出会って「あんたの聞くようなことは、どんなことでも答えて差し上げられんことはないよ」と言った。ところが、相手もさるもの「さあ、どんなもんでしょうかねぇ」大納言はこの生意気な返答にむっとしたか「なに、それなら、ひとつ論争しようじゃないか」と挑みかかった。参議のほうは落ち着き払ってかしこまり「ちゃんとした正規のことは、片はしも学んでおりませんので、お尋ねするまでもないんですが、下らん些事で、気にかかってわからないことがございまして」老人はますます大きな態度で「そんな下らんことなら、まして、なんでも答えて進ぜよう」と乗り出し、相互に対決する状況になった。
 二人のやりとりを聞いていた近習の人々や女官たちは、面白い争いになってきた、同じことなら、ミカド(後嵯峨院?)のおん前で、やって頂いて、負けた方が御食膳を用意されることにしようじゃないか、と取り決め、二人は、院のおん前で、対決することになり、まず参議は「幼いときから聞き慣れていることなんですが、意味がわからないことがございます『むまのきつりやう、きつにのおか、なかくぼれいり、くれんとう』と申すことは、なんという意味でございますやら、承りたい」と申されたところ、大納言入道は、ぐっと詰まられて「これは下らんことで、答えるにもあたいしない」と言われたが、参議は「もともと学問的な深いことは知りませんから下らないことをお尋ね申し上げる、と決めてお尋ね致しましたよ」と言われたので、入道の負けになり、約束の食膳を豪華になさった、という話。ちなみにこの、ま❛むまのきつりやう❜云々は、諸説あるが、子供の遊びの囃し言葉だろうといわれている。
 いずれにせよ、大言壮語は慎みたいものだ、という戒めるにはなるかも。


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