徒然草とともに 3章 ⑩

 前号でことわったように61段以降、少し飛んで、68段の説話を読んでみることに。まるで3世紀前の「今昔物語」にもありそうなお話。

 現在の九州、当時は筑紫と呼ばれていた土地での出来事で、その地のひとりの押領使(国司に命じられて、おもに都から遠い地方での私闘をとりしまる役人職で、名前は不詳)で、土大根を万能薬として、朝毎に2本づつ焼いて食べることを長年の習慣にしている人物がいた。

 ところがある日、館が無人の時を見計らい、敵が襲ってきて館を取り囲んだ。すると無人のはずの館の中から兵が2人出てきて、命を惜しまず戦い、敵を残らず追い払ったのである。

 不思議に思い「日頃この館ではお見受けしない方のようだが、こんなにはなばなしく戦ってくださるとは、どなたでしょうか」と訊ねたところ「この年月、頼みにされ朝毎にお召しになった土大根でございます」と答えて消え失せた。
 深い信仰があれば、このような救いの恵みもうけられたのであろうか。

 仏信仰もかくあるべしと述べたげなところが、なみの説話とは少し立ち位置が違うように思うが、それだけに興味深い意味合いを含んでいると思う。


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