徒然草をひもといて 5章㉟195段

 195段、当時洛南にあった、高位の貴族久我家の荘園でのできごと、当主の元従一位内大臣は、1240年生まれ、1288年に退職し1308年世を去られた、と伝えられているから、法師とはちょうど一世代ずれている。実際に目撃した話ではなく、ある人の語りという形式である。
 繩手通りに面した田のなかで、下着に裾の広い袴を着た姿で,木造の地蔵を田の水に押し浸し、ていねいに洗っておられた方がいた、そこえ、公卿の用人たち2,3人が狩衣姿で駆けてきて「ああ、ここにおいでになった」と叫んで、連れ帰られたという。在任中は落ち着いた”やんごとなきひと”であったのに、と、見聞した人物の伝えがき、としてさらりと書かれている。
 簡潔で、なんのコメントも加えていないが、現代でも、ひとの心について、多くのことを考えさせられる一文である。 


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