徒然草をひもといて 5章40 主従の交わり

平(たいら)の宣時朝臣、老いの後、昔語りに・・という書き出しで、註に、北条時頼の逸話とある。因みに216段も同じ時頼が登場する逸話で、「古き佳き時代」の君臣の交わりとでもいおうか、この段の相手は少年、歴史ともいえず、立ち入った話でもないが、人間らしい逸話として読むと興味深い。 時頼、当時は最明寺入道と呼ばれ、すでに隠居の身、宣時朝臣はまだ若くこの後も、時宗、貞時と3代に仕えた歌人でもある。その若かりし日の思い出話で、ある夜,不意に時頼公(最明寺入道)に呼ばれたものの、「やがて」現代語訳によれば「すぐに参ります」と答えたものの、直垂が見つからず、ぐずぐずしていたら、なた使者が来て「直垂が見つからないのか?夜なんだから、どんな格好でもいい、早く」と催促され、やっとよれよれの直垂に普段着のままで、伺候した。入道は銚子にかわらけを取り揃えて持ち出され、「この酒、独り飲むのも寂しいから呼びだしたんだけど、もうみんな寝てるだろうし、酒の肴はどこかにあるかしらん、そこらで探してくれないか」といわれるので、紙燭を点してあちこち探したら、台所の隅に、素焼きの小皿に味噌が少し残っているのを見つけ「こんなものがありましたが」『ああそれでよし』とたいそうご機嫌で、盃を重ねられました。あの頃はこんな風でしたよ」という話で、若き日の忘れがたい追憶だったかもしれない。

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