徒然草とともに 3章 28続2

 かたわらで聞いていた人物が説くには「牛の持ち主はたしかに損をしたとはいえ、また大きな利益も得たんだ。その訳は、生あるものは、死の近いことを知らない、それがいつ突然来るか、あの我牛の死が教えてくれた」とねんごろに論をすすめて説いていくのである。いわく、❝人の一日の命は、万金より重し、牛の値は鵝毛(がもう)より軽し❞と、万金を得たのだから、一錢を失って損をしたとは云うべからず、だ、といったので、聞いていた人たちは、みな、そんなこと、牛の持ち主に限ったことでもなし、と嘲
った。


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