今日と明日のルーティン
「お急ぎの方、お先にどうぞ!」
「お次の方、ちょっとお待ちください。只今、大急ぎの方がいらっしゃいました。大急ぎの方、お先にどうぞ!」
この店は行列のできる大繁盛店。私はいつも列の後方に並んでおとなしく順番を待っている。どれだけ早く来て列に並んだところで、必ず自分の番が訪れるとは限らない。なぜなら、世の中には急いでいる人が多すぎるからだ。
「無茶苦茶お急ぎの方、真っ先にどうぞ! 少々お待ち。大至急の方がお見えになりました。大至急の方、お先にどうぞ!」
私の番はなかなか巡ってこない。この列に大した意味なんかない。ただ少し有り難がって並んでいるようなものだ。
昨日みた夢の話をしよう。
私はゴールを決めたはずだが、異議を唱える者がいた。
「ちゃんと両手を使った?」
「使っただろ!」
ボールを額にくっつけて押しつければゴールだ。ゴールに空間はなく、壁の真ん中がゴールに位置づけられていた。正しく両手を使っていればゴールだが、それが認められなければハンドの反則になるところが難しい。非常にわかりにくいルールだった。センターラインにはネットが張られ、パスは越えられるが、ドリブルする時には外を回らなければならなかった。
「お次の方、少々お待ちください。切羽詰まった方、お先にどうぞ!」
「えーと、あなたは……。多少お急ぎでしたか?」
「いいえ、特に。いつでも構いません」
「かしこまりました。そのままお待ちくださいませ」
少しはずる賢さを身につけなければ、人の前に出るのは難しいのかもしれない。だけど、ここでそれを出すべきなのだろうか。急いでいないのは本当のことだ。後から来た者に追い越されてばかりの私は、ただの愚か者か。約束のない時間が私の前にどこまでも広がっているようだ。退屈から解き放つためには、自ら妄想の扉を開く以外にはないのだ。
私はコインランドリーを開く。居心地がよく、誰でも駆け込めるような素敵な場所だ。子供は宿題を解き、猫は気兼ねなく暖を取る。城を追われた武将も、首を切られた落ち武者の幽霊も、平和を求めて駆けてくる。パズルに興じてもいいし、ダンスの振り付けをしてもいい。サラダを作ってもいいし、コーヒーを飲んでいるだけでもいい。勿論、洗濯なんてしなくてもいい。位置づけはコインランドリーだとしても。とにかくウェルカムな場所になればいい。
夢には続きがあったように思う。
宅配便を運んできたのはいつもの人だった。
「10箱になりますよ」
どこか深刻な顔をしていた。若い衆が次々と庭に箱を運んでくる。中身は組み立て式の炬燵だった。真冬だというのに、男たちは全員上半身裸で作業していた。それだけ重労働だということだ。私は外に出て、箱が揃うのを立って見守っていた。自分だけ暖房の効いた部屋の中にいるのは、何かわるい気がしたからだ。風が冷たく、全身で冬を感じた。
「ここに置いてください」
「お次の方、ちょっとお待ちください。駆け込んで来られた方、生き急いでいらっしゃいますね。お先へどうぞ!」
「恐れ入ります。順番が前後します。我先にの方、前にお進みください!」
「わーっ! 俺もう後がないねん!」
「少々お待ち。後がないと言う方、真っ先にどうぞ!」
「恐れ入ります。本日は完売となりました! またのお越しをお待ちしております」
やっぱり、今日も駄目だったか……。
いつものように私は立ち尽くしたまま悲しい知らせを聞いた。
楽しみはまたおあずけとなったが、それはまた明日を生きる理由ともなった。
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