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家庭訪問美術館

「繰り返し問題が起きたため50年先のnoteを表示しています」
 サイトに生じた度重なる問題のために先が見えた。
 未来の私は小説から離れてパラパラ漫画を熱心に描いている。新しい知らせが届く。ベルをタップすると問題が起きた。
 もう一度タップ。
 画面が真っ白になってサイトがリロードされる。
 私は次の漫画を投稿しようとしていた。熟成下書きのお題が受け付けられない。
「まだ熟成されていません」
 フォトギャラリーがクラッシュして、部屋の明かりが消えた。窓がガタガタと震えている。私の体が何にも触れられずに持ち上がった。
(運ばれる)
 私は美術館の中を歩いていた。
 順路を示す矢印がかすれてよく見えなかった。誰の足音も聞こえない。
 立ち止まったのは、虎の絵の前だった。

「子の虎をここから出してください」
 絵の中の虎が口を開いた。テクノロジーを使えば、出すというのは難しいことではない。問題は倫理の方だった。
「外の世界を見せてあげたいの」
 子を思う親虎の主張はわからなくもない。
「出すのはいいけど、そのあとは……」
 計画性があるようにはみえなかった。
「私のようになってほしくないの」
「癒しを与えてるじゃないですか。みんないいと言ってますよ」
 親虎は自分たちのことを、どれほどわかっているのだろうか。
「この額縁の中では成長できないのです」
「世間がどんなとこかわかっているのですか?」
「いいえ。でもここよりわるくはないはず」
「どうしてそう思うのです?」
 親虎は答えなかった。

「期待だけでは上手くはいきませんよ」
 子虎はまだ一切口を開いていなかった。
「あなたはここに居続けたことがないからよ」
 親虎はつぶやくように言ってから目を逸らした。
「いなくなったとわかったらきっと問題になる。僕だってその時はどうなるかわからないんだ」
「どうせ手を貸す気なんてないのでしょう」
「決めつけないでくれ!」
 親虎の姿勢に少し腹が立った。

「みんな通り過ぎるだけなんだから……」
「また来週会いに来ます」
「もう結構よ」
「あなたにじゃない」
 子虎はじっと私の方をみつめていた。
 今度は君の声が聞きたい。

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