見出し画像

成り上がり(アピール・トレイン)

 目立ちたい。突き進みたい。掲げたい。酔いしれたい。魅せたい。教えたい。考えながら走りたい。飢えを秘めてピッチサイドを駆けた。俺はアピール列車だ。発車時間はまだ知らされていない。仲間は劣勢だと風が歌うのを聞いた。きっと必要とされる時がくる。
 読解力、走力、俯瞰力、突破力、シュート力、奪取力、推進力、応用力、語学力、包容力、馬力。種々のスペックを身につけて往来する俺の光を、どうか目にとめてくれ。

「ナンバー14!」
 65分。俺はピッチに送り込まれた。
 ついに本領を発揮するべき時がきたのだ。

 俺は俺のすべきことを思う。
……あれ。

(あれは何だったの)

 思いすぎたものが、瞬間消えていくのがわかった。

「ねえ、ママ。ぼく何をしにきたの?」

 遠くで汽笛が鳴っている。
 太陽の光が射してピッチの上に詩を投げかける。
 大丈夫。

「まだ始まったばかりよ」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?