F47

「今は?」
「47%です」
 AI記録係が答える。鼻差か……。
 指しはじめから評価を下げられている。
 飛車を振ったというだけでこれだ。真っ直ぐに敵陣を目指さず、1手使い自陣を移動したという指し回しがお気に召さないか。 
 しかし、私は遠回りすることが好きなのだ。
 敵は急戦の姿勢はみせず着々と囲いの完成を目指す。穴熊だ。完成すれば手のつけられない堅さとなる。こちらも黙ってはいられない。一目散に穴熊囲いを目指す。堅さには堅さで対抗する。古くからの教えである。
 駒はぶつからないまま待望の昼食タイムが近づいてきた。お互い全く同じような陣形だけに、形勢はほぼ互角と思われる。

「今は?」
「43%です」
 AI記録係が冷たく答える。
 何も悪手を指した覚えはないが、最新テクノロジーを通してみれば、僅かに形勢は悪化したということか。
「昼休に入れてください」
 10分前に私は次の手を持ち越した。これ以上悪くしてはメシがまずくなってしまう。きっと午後は流れが変わる。
 きつねうどんに七味唐辛子をこれでもかと注ぎ入れた。暑い夏が更に暑くなったように体が燃えてくる。

「ふらなきゃやってられない」
 うどんも四間飛車も、好きなものは譲れないのだ。





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