【最終話】T.A(その3)

「大佐!「ヌキ」についての報告です。」
「もういい、どうせまた「カンヌキ」だとか「イアイヌキ」だとか、ヌキのついた日本語見つけました!だろう。」
「・・・ケヌキ」
「手がかり無しか・・・」

 総力を挙げた暗号解読であるが、暗礁に乗り上げたままどうしても船は進まない。
 すでにタヌキとセンヌキ、そしてヌキに関する日本語は調べ尽くした。
 古語にいたるまで渉猟し、あらゆる文化的観点からも考察し、これらの言葉の意味を考え抜いていた。
 平行して暗号理論、数学的観点からも調査を続けていたのだが、ある日

「大佐、暗号解読の一助です。
 「ヌキ」には「排除」の意味があるという報告が上がってきました。」
「ウェルグリー大尉、それは大分前に議論された。結果、だから何?で終わったはずだ。」
「現在、ミッドウェイ島司令官に「真水蒸留装置が壊れた」と平文の無線電信を送ってもらっています。」
「壊れたのか。いや、テストだな。」
「その結果、「AFデ水不足タ」という日本軍の暗号通信を傍受しました。
 もちろん、タヌキのイラスト付きです。」
「AFというのは?」
「日本軍の「ミッドウェイ」の符号です。」
「なるほど、日本軍はまんまと引っかかり、「AF」がミッドウェイの符号だと我々に教えてくれたわけだ。文末についている「タ」が相変わらず意味不明だが・・・いや、あれ、ひょっとして「タ」は読まなくて良いのか?」
「EXARCTLY!」
「まてよ、そうすると・・・「排除」の意味が生きてきた。」
「今、その線で「タ」と「セン」の暗号文を再度洗っております。」

 暗号解読班は米国中の専門機関に依頼し、文中に含まれる全てのカタカナをいろんなパターンで排除していき、116万9000通りの暗号文解読をテストした。
 
「大佐、確定です!」
「ウェルグリー大尉、報告はすでに聞いている。我々の勝利だ。」
 スコット大佐は机に文書を放り投げた。
「見たまえ、1時間前に我が軍が傍受した日本軍の暗号だ。」

 そこには日本軍が空母4隻を含む機動部隊でミッドウェイ島を攻撃すると言う内容の電信文があった。文中にはあちこちに「タ」「セ」が混じっているが、排除すれば意味が通る。

「大佐、やりました・・・やりました!」
「ウェルグリー大尉、我々の勝利だ。」

 コンコン
「大佐、緊急電です。」
 大佐はドアを開けて報告を受け、再び入室した。
 険しい顔だ。ウェルグリー大尉は緊張した。

 大佐は無言で電信文を机に放り投げた。

「こ、これは!」

「今度は「K.O」のようだ。ウェルグリー大尉」
「コヌキ?」
「いいや、わからん。」

 電信文の右上には彼らを嘲笑うようにミステリアスなイラストが描かれてあった。
 棒状のオモチャなのか、なんなのか。頭頂部には子供の顔がついている。

「やりましょう、大佐!」
「そうだな、うちひしがれていてもはじまらん。」

米軍暗号解読班の戦いはこれからだ!

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