散文 "光の船は海へ出る"

 ちょうど正午になって 空の色を見ていた人々がすこしやさしくなるにおよんで 告げておくべきこと。秋口に殺された異国の人々を悼むことは いわば土のうえに放りだされた一切れののピザを 腐敗して土に溶けこんでゆこうとするのを拾いあげて またそれの母体を探すようなものである たとえば母体否定とか 時空の構造の再考とか まして天文学じみてきた人類史とかそういった話をしているのではない 地球を発見しようとするのは かえって遠回り 近道すぎるが故の遠回りとなるだろう

 つまりはこういうことだ 一切れのピザが腐敗してゆくならば その前にギターをかき鳴らせ 小手先の知識も知性も必要ない 観客と共演者を抱きしめ 好きな女の子と寝る あまりにも 不幸は堅牢なのだから……

 蟻が 捨てられた革靴の中を すこしずつすすんでゆく わたしはあたたかいマフラーをまいて 唾棄によって 星を撃ち落とそうとする

 一房のぶどう エルー エルーと泣き声がきこえる 円盤状の永久機関は正確に ゆっくりと 金槌を落としながら回転をつづけてゆく ひとりの漁師へ届けられる絶縁状 漁師は死ぬために船をだす 街は恐竜の骨のような風貌をして 深淵の夏はちかい 安全なピストルを抱えこんだために ほとんど絶滅してしまった赤い肌の民族 死語は厳禁となり ますます無力な摩天楼 ケーキの香りをきみは思いだせるだろうか 

 彼らは 雪でぬかるんだ道の横に粗末な茄子畑をつくり その合間をかけぬけた 壁に描かれた彼らは それでも茄子畑の合間を旅してゆく

 熱心な道徳の講義は放課後の雑巾がけと意味を等しくする 個性 平等と平和 あらゆる教師は 学童を鉛玉かなにかのように信じなければならない だが今となって すべては遅すぎるだろう 校舎もなく 校庭もなく 小さな茄子畑のわきに背のひくい鉄棒がひとつ残された 足を引きずる老人がときおりやってきて 鉄棒の足元に小便をしてゆく 畑の向こう側には教会があった

母の声を破りすて 丘の上で発声をくりかえす チェロをたたきつけるような音が去ってゆく


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