ワールドブルー社のコピー機の点検
「そろそろコピー機の点検時期だ」
「なんのはなしですか?」
私は帰って来たコメントをみて思わず呟いた。
全く意味がわからない。
私は名前を名乗るわけにはいかないのだが、株式会社マッシュルームの通信員の1人だ。
別に雇用関係は結んでいない。
ただ意味のない話の報告を日々あげるとわかったようなわからないような返事が返ってくる。
しかし今回のコメントは過去最高に意味がわからない。
どうでもいいか。
ほっておこう。
私はそう思った。
駄菓子菓子、気になる。
仕方ない。テキトーに動くか。
私はクローゼットから遠くニュージーランドの柴犬が好むという作業着を取り出して着替えた。
鏡に姿を映してみる。
よし、バッチリだ。
こうして私は今ワールドブルー株式会社の美人秘書に挨拶をしている。
「いつもお世話になっております。消防署のほうからやってまいりました『名前を名乗ってはいけないもの』です。本日は社長室のコピー機の定期点検に伺いました。」
この会社は全くやりにくい。
挨拶を楽しまなくてはいけないのだ。しかしこっちは名前を名乗るわけにはいかないのである。私は今日もテキトーに挨拶した。
そのへんのところを察知してくれる優しい美人秘書ゆにさんは
「まぁ。今日は消防署のほうからいらしたのですね。定期点検ご苦労様です。こちらへどうぞ。」
と私を社長室に案内してくれた。
わかってるんだそんなこと。
普通の会社ではありえない。
アポなしでこんな要件で名前を名乗らない人物を社長室に入れたりしない。ゆにさんはとても賢くて優しい。大したことはしないだろうとわかった上でこの茶番に付き合ってくれている。
私は首筋が熱くなるのを感じながら、もう少し丁寧な挨拶文を考えてこれば良かったかなと考えた。
社長室に入ると社長が誰かとTシャツやマグカップを眺めて楽しそうにしていた。
「コピー機の調子はいかがですか?」
私はゆにさんに尋ねた。
「それがこの頃紙が詰まるときが多い気がするんです。」
「それは気になりますね。すこしみてみます。お時間いただきますよ。」
コピー機の点検をするふりをする。
電源を抜いてみたり。紙の補充をしてみたり。長押しボタンを押したり。試しにコピーしてみたり。ちょっと数字を入力してみたり。
「問題ないようですね。梅雨時期が近づいてますからそのせいかもしれません。エアコンを使えば治ることもあるんですよ。少し様子をみてみましょうか。」
私は点検用具をしまいながらそう
ゆにさんに告げ、ワールドブルー株式会社を後にした。
さて、帰宅すると報告である。
昨日のめぐみティコの謝罪会見でおそらく
株式会社マッシュルームのなんのはなしです課のコニシ氏は
ワールドブルー株式会社の社長の蒼氏が意外と繊細なので凹んでるんじゃないかと気にかけて
コピーの点検のフリして様子見てこいと私に命じた気がするのだ。
でも
私の考えすぎな気もする。
なんて書こう。
今日の報告書。
カチャカチャカチャ
よしこれでいいだろ!
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