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妥協効果と損失回避の法則を活用して業績を拡大させたガソリンスタンドの事例

1.妥協効果とは? ~消費者が「竹」を選ぶ心理

 妥協効果とは、消費者が商品やサービスを選ぶ際に、価格や品質などの属性が異なる複数の選択肢がある場合に見られる現象です。これら選択肢の中で、極端に高価な選択肢や極端に安価な選択肢を避け、無難な中間の選択肢を選びがちであり、松竹梅があったら「竹」を選ぶといった傾向を指します。

 これは、損失回避の法則という心理が働いています。人は利益を得ることよりも、損失を避けることに対して強いモチベーションを持つものです。消費者は、買い物の失敗を避けるために、極端に高いものや安いものを選ばず、中間のものを選びがちになるということです。

 事業者はこのような心理効果を理解することで、消費者の購買行動に影響を与えることができます。以下では、妥協効果を活用して客単価を向上させた事例や、損失回避の法則を活用して販売を促進させた事例をご紹介します。

2.オイルメニューの改変で客単価アップ

(1)既存のオイルメニュー

 あるガソリンスタンドのエンジンオイルメニューは以下のようになっていました。

- オイルA:3,000円/ℓ
- オイルB:2,000円/ℓ
- オイルC:1,200円/ℓ
- オイルD:1,000円/ℓ
- オイルE:980円/ℓ

 このメニュー構成において、多くの顧客は妥協効果によりオイルCを選んでいました。これはオイルCが極端に高価でもなく安価でもないため、無難な選択肢として見なされたからです。

 これを踏まえ、このガソリンスタンドは既存のエンジンオイルメニューに、高価なエンジンオイルX(3,500円/ℓ)と、売れ筋のオイルCよりも300円/ℓ高いオイルY(1,500円/ℓ)を追加しました。その結果、新しいメニューは以下になりました。

「オイルはどれを選べばいいのか分かんないから、結局真ん中を選んでしまう」

(2)新規のオイルメニュー

- オイルX(新規追加):3,500円/ℓ
- オイルA:3,000円/ℓ
- オイルB:2,000円/ℓ
- オイルY(新規追加):1,500円/ℓ
- オイルC:1,200円/ℓ
- オイルD:1,000円/ℓ
- オイルE:980円/ℓ

 この新しいメニュー構成において、オイルYが新たな中間選択肢となりました。「新規に追加したオイルY」とそれまで「中間の選択肢であったオイルC」の価格差は300円/ℓと大きくはなく、多くの顧客にとって、この価格差はそれほど大きな負担ではありませんでした。そのため、顧客はオイルYを選ぶことに大きな抵抗を感じることなく、次第にオイルYを選ぶ傾向が強まりました

 結果として、オイルYが最も売れるようになり、このガソリンスタンドは客単価を引き上げることに成功しました。すべてのオイルの利益率が同じであると仮定すると、客単価の上昇により利益も増加し、収益性の向上が実現します。

 また、別のガソリンスタンドでは、損失回避の法則を利用してタイヤの販売実績を拡大させました。

3.損失回避の訴求でタイヤの販売実績拡大

 同店では、すり減ったタイヤを装着している車両の顧客に対し、タイヤ交換をお勧めする際には、タイヤを交換するメリットの他に、タイヤを交換しないデメリットも説明するようにしました。

 タイヤがすり減ると、排水効果が低下し、雨や雪の日にスリップしやすくなり、車の制御が難しくなり、事故のリスクが高まります。また、すり減ったタイヤは停止力やカーブの走行力も低下し、急な障害物やカーブに対応できなくなり、これも事故のリスクを高める要因となります。

 さらに、タイヤがすり減ると走行中にパンクしてしまう可能性があり、車が制御不能になり、大事故につながる恐れがあることを、店頭に展示している破裂してぼろぼろになったタイヤを見せながら説明していました。

「パンクしてしまった。。。」

4.損失回避の心理を活用する際の注意点

 同店の販売手法で感心させられるのは、このような損失回避の心理を突いた販売手法は、やりすぎると倫理的な問題があることを認識していた点です。よって、過度に恐怖心を煽ることなく、タイヤ交換によるメリットもきちんと説明し、顧客に納得していただいた上で販売することを心がけていました。

 そのため、交換後に「交換は不要だったのでは?」というようなクレームは一切入りませんでした。

5.まとめ

 顧客心理を理解し、効果的なマーケティング戦略を展開することは、業績アップの鍵となります。この記事では、顧客心理の代表的な法則である「妥協効果」と「損失回避の法則」を、ガソリンスタンドの具体的な事例とともに解説しました。

 これらの法則を活用することで、客単価を向上させたり、販売実績を拡大させたりすることが可能です。

 さらに、倫理的な問題に配慮しながら、顧客にメリットをきちんと説明し、納得していただいた上で選択できるようにすることで、より効果的に顧客心理を活用することができます。

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