映画音楽日記

『ワイルドスピード』を全作観ました。

7月に『スーパーコンボ』、8月頭の金曜ロードショーで『ICE BREAK』と続けて観ていたのですが、ちょうどNetflixでの『ワイルドスピード』シリーズの配信が8月15日に終わるということだったので過去作をまとめて観なおしてみることにしたのです。

『ワイルドスピード』シリーズは子供の頃からほぼリアルタイムで観てきたとはいえ、以前同じように全作観ようと思いついた時には第3作目あたりで心が折れた記憶があったので今回は『SKY MISSION』、『EURO MISSION』と遡っていくことにしました。

遡って観ていくと、面白いことに、コテコテになってしまったこのシリーズが1作ごとに何を削ぎ落として何を残していってるのか、順を追って観るよりもよくわかりました。今でこそ車が空を飛んでもなんとも思わないくらい文字通りなんでもありの映画になっているだけに、初期作で車が道路を走って純粋にカーレースやってるシーンなんかはちょっと感動してしまいそうになります。

第1作まで辿り着いたときに改めて感じたのは「こんなに"白人青春映画"だったんだ!」ということです。白人青年ブライアンとラティーノ勢のボスであるドミニクが中心なのはどのシリーズも変わりませんが、かませ犬の黒人(ジャ・ルール)、敵対勢力のアジア人(リック・ユーン)というわかりやすいステレオタイプな構図の第1作は思っていた以上に「ザ・白人映画」。

『ワイルドスピード』といえばヒップホップのイメージも強いですが、サントラにこそジャ・ルールの曲なんかが入っていますが、第1作の「いいシーン」で流れる音楽はヘヴィロックだったりメタルっぽい早弾きのエレキギターだったりミクスチャーっぽかったり、こちらも白人音楽の色が思いのほか濃い。

このテイストが変わったのは第2作『X2』を『ボーイズンダフッド』『ポエティック・ジャスティス』のジョン・シングルトンが監督してからだと思います。第1作ではかませ犬だった黒人のポジションは相棒(タイリース)となり、敵だったアジア人のポジションは頼りになる味方のメカニック(MCジン)となります。

第3作『TOKYO DRIFT』以降で監督が台湾系アメリカ人のジャスティン・リンに代わると黒人のルダクリスが機械にめちゃくちゃ詳しかったり、アジア系のサン・カンがオタク要素なしで主人公たちに匹敵する凄腕ドライバーだったり、ガル・ガドット演じるジゼルの戦う女性のキャラクター造形はそのまま『ワンダーウーマン』に繋がっていそうだったりと、さまざまなステレオタイプを乗り越える配役を00年代半ばから試みていたように見えます。

音楽面から見ると、マイアミを舞台にした『X2』で当時のマイアミ・ヒップホップのビッグネームだったトリック・ダディやピットブルをサントラに迎えると、以降『TOKYO DRIFT』で東京、『MAX』でメキシコ、『MEGA MAX』でブラジルのご当地ヒップホップを大々的に取り上げるようになります。

(特に『MEGA MAX』で流れるサウダージ感あるヒップホップはとてもクセになる心地よさがあります。たびたび触れていますがCD購入の優先順位としては必ずしも高くなかったサントラをガンガン聴けるようになったのはサブスクリプション型ストリーミングサービスの一番良い点だと思っています。)

さて、ここで感じたのは、シリーズが進むごとに『ワイルドスピード』がローカルの「カーレース文化」から離れて世界を舞台にとにかく車をぶっ飛ばすこと自体に主眼が移っていったように、2000年代、2010年代と進むにつれてヒップホップもまた地域の文化から離れて世界に広がる「ラップ・ミュージック」になっていったということです。

「1作の中で世界中を転戦する」形が確立した2013年の『EURO MISSION』以降はサントラも完全に「ヒップホップ」から「ラップ・ミュージック」に変わったように思います。もしそれが「ヒップホップ」なら、過去にテリヤキ・ボーイズが起用されたようにロンドンやモスクワ、中東のローカルなラッパーにもっと光が当たってもよかったはずですが、実際はウィズ・カリーファあたりを中心に地域性を特には感じさせないとにかくイケイケのラップが集まる構成になっています。

2010年代といえばトラップが世界に広まったことが繰り返し説かれていますが、もっとざっくりと「欧州、中南米、中東、世界中どこでもラップ・ミュージックがガンガン流れている、しかもそれはカッコイイ」というイメージを強烈に先導したという意味で『ワイルドスピード』シリーズが果たした音楽的な役割はとても大きかったんじゃないかと感じました。

もうちょっとサントラを聴きこんだり世界的なヒットチャートを調べたりして「ワイルドスピードとラップ(≠ヒップホップ)」についてまとめてみたら面白いかもしれません。

今日はここまで。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?