昔日の「編集者心得」

某理工系出版社につとめていたころ、数年間にわたって【本日の編集者心得】という(私用)タグをつけて、訓戒めいたツイートをしていたことがある。久しぶりに検索してみたらちょっと面白かったので、Xがいつの日か前触れなく消滅する日に備えて、ここに置いておくことに。「こんなことを言い出す先輩がいたらちょっと面白いな」という感じで、Twitterにだけ吐き出された「心得」たち。日々の単調な仕事を少し劇的に演出するような息抜きでもあっただろうし、半分本気、半分ふざけた「プロ意識」のマッチポンプのようなものでもあっただろう。

【本日の編集者心得】原稿督促はクレームではない。スケジュール管理のお手伝いという、著者への「サービス」だ。

2018年10月11日

【本日の編集者心得】途中原稿への感想は最優先で返す。ボールがこちらにある間、原稿は進まない。

2018年10月12日 

【本日の編集者心得】誰かが薦めてくれた本は読む。面白かったら、その人と友達になる。

2018年10月15日

【本日の編集者心得】世の中でいちばん希少価値の高いものを扱っている自覚をもつ。著者の時間だ。

2018年10月16日

【本日の編集者心得】著者に、これについては自分が書かねば、書きたい!と思ってもらえた時点で、編集者の仕事は8割終わっている(ときもある)。

2019年1月22日 

【本日の編集者心得】編集者だけでできるのは伝え方の局所最適化まで。全体最適化は、著者に働きかけるのが仕事。

2019年1月23日 

【本日の編集者心得】原稿を頂いたら、まずはその原稿の著者にとっての練度を見極める。箱根の山を登り終えて芦ノ湖が見えたくらいの満を持しての原稿なのか、小涌園あたりで1度見せておくかという原稿なのか。

2019年2月8日

【本日の編集者心得】社内からのダメ出しが堪えたら、過去に味方になってくれた著者たちを思い出して落ち着く。そのうえで自分のバイアスに向き合う。通すところは通す。

2019年4月18日 

【本日の編集者心得】文章が事前の下図(概要・目次案)どおりに仕上がらないのは悪ではない。むしろ、あらかじめ自分が何を書くのかを100%知っているなら、その文章は書かれる必要がない。著者が著者自身の予想を超えていく、そのプロセスに付き添うために編集者はいる。

2020年10月12日 

【本日の編集者心得】いま、大学の先生たちは必要に迫られて、マルチメディアな教材編集スキルを物凄い勢いで磨いている。手をこまねいていたら、あっという間に取り残されそうだ。

2020年4月13日 

【本日の編集者心得】天変地異が起こると、書き溜めてきた本の原稿が、にわかに不要不急なものに思える瞬間もあるはず。でも、天変地異でリアリティが損なわれるような思索なら、はじめから書籍には向かないともいえる。そうでないなら、執筆の継続を。その本には、今こそ価値があるかもしれない。

2020年4月4日 

【本日の編集者心得】うっすら違和感のある表現には、必ずその近傍に解がある。辞書を引こう。

2020年5月18日 

【本日の編集者心得】著者の「引き出し」を見極め、その「取っ手」をそっと引くのは、ときに編集者かもしれない。

2020年5月21日

本日の執筆者心得。書きたい話題の引き出しはすでに自分の中にある。付け焼き刃で得た知識から書けることは実は少ない。その気になればいくらでも引き出せる。取手が見つかりづらいだけだ。

2020年5月21日 

【本日の編集者心得】子どもと散歩しながらできる仕事:書名検討。

2020年5月8日 

【本日の編集者心得】誰にでも一様に飲み込める言葉はない。どんなに明快・一義的にみえる言葉も、特定の歴史や学問的系譜を背負い、特定の人生観・現実観を共有しているであろう読み手に向けられている。この「始点」と「終点」を意識せずして、「分かりやすさ」も「読者目線」もない。

2020年8月6日

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