2022年2月ウクライナ侵略開始後の科学技術外交をめぐる言説収集メモ・随時追加

ロシアによるウクライナ侵略を受けて、様々な形でのロシアへの制裁や交流の断絶が始まっている。科学・学術の分野でもロシアとの共同プロジェクトの停止など、動きが広がっている。

このあと、ロシアの科学だけが孤立の道を歩んでいくのだろうか。あるいは、科学者の紐帯は切れずに残るのか。はたまた、他国も巻き込んで、世界の科学・学術はいくつかのブロックに分裂していくのだろうか。もちろん誰にもわからないし、何よりウクライナ、ロシアの今後の情勢によるだろう。それでも、初動における各国の言説が気になり、ここ数日、目に入る情報を集めてみている。以下はそのメモ。

背景:科学(技術)外交について 今日、グローバルに展開する科学は、国家間の外交とも不可分な関係にあるが、そうした「科学と外交の関係」を議論してきた分野に「科学外交」(science diplomacy)がある。日本では「科学技術外交」という言葉が政府系機関では用いられ、そちらが普及しているようだ。科学(技術)外交は大きく、①外交における科学(Science in diplomacy)、②科学のための外交(Diplomacy for science)、③外交のための科学(Science for diplomacy)に分けて議論される(AAAS and Royal Society, 2010)。このうち、「③外交のための科学」とは、国家間で科学を共同で行うことで、国家間の関係構築を促すことを指す。この観点に照らすと、政治のレイヤーで軋轢がある国とも、科学(技術)外交の観点から科学者の交流や共同プロジェクトを継続することには一定の意義があるともいえる。とはいえ、あまりにも非人道的な軍事侵攻がなされている段階では、メッセージの一貫性や制裁の実効性の面から、まずは一度中止すべきだろうという意見もある。今、各国の政府や研究機関――とくに比較的ロシアとの結びつきが多かった欧州を中心に――は、難しい判断を迫られているようだ。

以下、目を通した論考・声明を挙げていく。随時追加したい。

2022.2.28 北海道大学「ロシアによるウクライナに対する軍事侵攻について(総長メッセージ)」【内容の一部抜粋】「北海道大学は…日露間の大学間交流に深く関わってきており、現状を深く憂慮…。アカデミアの連携については、これまでの成果を尊重…一方で、ロシアのアカデミアにおいても、今回の紛争に対する平和的解決に関する議論がなされることを期待します。」

2022.3.2 学術出版の専門家らによる論考”Decoupling from Russia” 【内容・主張の一部】ロシア科学との「デカップリング」の可能性と、科学の公開性が維持されるかどうかについての問いを提起。

2022.3.3 Peter-Andre Alt氏(ドイツ学長会議長)への取材:”German academics told ‘not to cut ties’ with Russian counterparts” 【内容・主張の一部】ドイツがロシアとの共同研究プロジェクトの中止を決めたことを受け、個人のつながりは切るべきではないとし、論文の共著も推奨。

2022.3.4 Marcia McNutt(米国科学アカデミー(NAS)長)らのサイエンス誌論文 ”Scientists in the line of fire” 【内容・主張の一部】かつてのNASによるアフガニスタン科学者の支援が参考になる。ロシアの科学者の一様な批判はだめ、しかし共同継続がロシア政府の支援につながらないよう要注意。

2022.3.5 Economist誌 ”What future is there for Russia’s foreign science collaborations?” 【内容の一部】今年計画されていた火星探査機打ち上げ(ExoMars計画)は見通し立たず。ISSの共同オペレーションは当座は継続。CERNとITERは対応未定。米・独大学など個々の機関の提携打ち切りがロシア科学への真のダメージとなる見込み。

2022.3.5 Joybrato Mukherjee氏(ギーセン大学学長・ドイツ学術交流会DAAD長)寄稿:”A price to pay: What science diplomacy means in wartime” 【内容・主張の一部】ウクライナの研究者・学生への大規模支援が必要。独→露の人材移動や共同イベントは停止。独にいるロシア研究者や個人での露→独の移動は継続支援。

2022.3.7 “European University Association suspends Russian members over pro-war statement” 【内容】ロシア学長連合が戦争支持の声明(2022.3.4)を出したことを受け、欧州大学協会(EUA)はロシア12大学のメンバーシップを一時停止。

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